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第2話 一人目との出会い

一人目のヒロインの登場です。

 

 喫茶店和水でバイトが終わった冬真は、赤く染まった夕暮れの中、家に向かって歩いていた。

 ちょうど桜が咲き誇り満開だ。少し遠回りをして桜並木を歩いていく。赤い空と桜のピンク色が美しい。少し早めのライトアップもされて、幻想的な光景だ。

 このまま暗くなるまで待って、夜桜見物でもしようかなと目的地を近くの公園に変更した。

 人通りが多い道を歩いていると、冬真の目の前の人物が躓いて転んだ。周りの人は一瞬その人物を見るが、スルーして何事もなかったかのように歩き去っていく。


「大丈夫ですか?」


 冬真は転んだ人物に声をかけた。


「はい。大丈夫です」


 顔を上げた人物の顔を見て冬真は息をのんだ。

 睫毛は長く、二重でパッチリとした大きな瞳。小さな鼻にぷっくらとしたピンク色の唇。肌は真っ白くきめ細かい。セミロングの黒髪は美しく輝き柔らかそうだ。息をのむほどの美少女だった。

 冬真と同じくらいの年齢の少女が痛そうに立ち上がると、手のひらは擦りむき、両ひざからは出血している。スカートから覗く白くて細い脚に赤い血が目立つ。


「これくらい何ともありません」


 痛みを我慢し涙目になりながら強がる少女を見て、冬真は放っておけなかった。


「近くに公園があるので、そこで傷を洗いましょう」

「でも…」

「そのままだとバイ菌が入って傷が残っちゃいますよ。公園はもう見えていますから」


 公園は既に見えている。少女は行く決意をした。公園に向かって痛みをこらえながらゆっくりと歩いていく。冬真は再び転んでも助けられるように気をつけながら、彼女に寄り添っていた。

 公園の広さはそれほど大きくない。公園の桜も満開で、土曜日の夕方なのでシートを敷いて花見をしている人がいる。もうすでに出来上がっているのだろう。顔を赤くした大人たちが騒いでいる。

 幸い、誰も水道を使っていなかった。少女は靴と靴下を脱ぎ、蛇口をひねって手や膝を洗う。冬真は持っていたバッグの中からタオルや救急セットを取り出す。怪我したときのために常備しているのだ。

 傷口を洗い終わった少女にタオルを渡す。


「あの、ありがとうございます」


 少女が申し訳なさそうに小さな声でお礼を言ってくる。


「気にしないでください。靴を履いたらそこのベンチに座ってください。消毒して絆創膏を貼りますから」

「そこまでしなくてもいいですから!」

「絆創膏貼らないと血が垂れてしまいますよ。ほら」


 少女の膝からは再び血がにじみ出て、小さな雫となって浮き上がっている。怪我はそこまでひどくはないが、少女の脚が白いぶん、赤い血が目立って酷い怪我のように見える。

 少女は大人しくベンチに座ると、手際よくティッシュを取り出し怪我の手当てをする冬真のされるがままになっている。

 冬真は一瞬彼女の脚に目を奪われるが、気持ちを切り替えて真剣な表情で手当てをしていく。


「少し痛みますよ」

「っ!」


 消毒液をかけた時、少女は痛みでビクッとしたが必死で我慢している。できるだけ素早く終わらせる。消毒を終わらせて絆創膏を貼る。


「よく頑張りましたね。これで大丈夫です」

「ありがとうございます」

「手も擦りむいていましたよね。消毒しておきましょうか」


 もう遠慮しても無駄だと悟ったのだろうか、おずおずと擦りむいた右手を差し出してくる。左手は怪我をしなかったようだ。細くて綺麗な手が少し擦りむいている。幸い血は出ていない。

 冬真はティッシュに消毒液をしみこませ、優しく傷口を拭う。痛みはなかったようだ。

 全ての手当てが終わった後、少女が丁寧にお礼を言ってくる。


「治療していただきありがとうございました」

「気にしないでください。女の子には優しくしろ、と親からきつーく言われていますから」

「出来ればお名前と連絡先を教えてください。タオルを洗ってお返ししたいので」

「そこまでしなくても…」

「私は桜ノ宮月光(さくらのみやつきひ)。今度高校一年生になります」


 少女が先に自己紹介をしてくる。綺麗な笑顔だが、”私は自己紹介しましたよ。さあ、あなたの名前も教えてください”と無言で圧力をかけてくる。冬真は時間が経つごとに増していく圧力に屈した。


「俺は伊勢冬真。今度星ヶ丘高校の二年になります」

「えっ! 私も星ヶ丘高校に入学するんです! 私の先輩なんですね!」


 月光がグッと顔を近づけてくる。彼女の体からふんわりと香る花のような甘い香りが冬真の鼻腔をくすぐる。心が安らぐ香りだ。


「じゃあ、学校で会った時にタオルをお返ししますね」

「今すぐでいいんですけど」

「学校で会った時にタオルをお返ししますね」

「…はい」


 再び笑顔から発せられる無言の圧力に気圧されて、冬真は月光の言うことに従う。


「敬語」

「はい?」

「敬語を止めてください。私の先輩になるんですからタメ口でお願いします」


 今度は見る者全てを魅了する可愛らしい笑顔だ。しかし、無言の圧力も増している。


「はぁ。わかったよ。これでいいかい、桜ノ宮さん?」

「最後のがダメです。月光と呼んでください」

「…月光さん」

「つ・き・ひ!」

「…わかったよ、月光」

「うむ。よろしい!」


 月光は満足気だ。いつの間にやら他人行儀が消え、馴れ馴れしくなっている。警戒心が解かれたようだ。馴れ馴れしく元気な姿が彼女の本来の姿なのだろう。


「先輩は時間大丈夫なんですか?」

「今、バイト帰りだったから。夜桜見ようかなって思ってたところ」


 周囲は日が沈み、紫色の空になっている。すぐに暗くなるだろう。ライトアップされた満開の桜が幻想的だ。夕暮れの時とは違った趣がある。


「私も桜を見に来たんです! ご一緒してもいいですか?」

「ただ歩くだけだよ」

「それでもいいです!」


 身を乗り出してお願いしてくる月光に冬真はのけ反りながら頷いた。二人はベンチを立ち上がり、公園を出てライトアップされた桜並木を歩いていく。


「えいっ!」

「うわ! 何するんだ!」

「見ての通り腕を組んでます」


 突然腕を組んできた月光に冬真は声を裏返して驚く。四月になり、ある程度薄着になった服越しに彼女の柔らかな感触が伝わってくる。密着しているため彼女のあまい香りに包まれる。女性とほとんど関りがない冬真には刺激が強すぎる。


「もしかして、彼女さんいます?」

「…いないけど」

「過去には?」

「…いません」

「好きな人は?」

「…いません」

「そうですか! ならいいですね!」


 嬉しそうに可愛らしく笑う月光を見て、欲に流されそうになるのを必死で我慢する。


「月光。数十分前に出会った男に、軽々しくこんなことしちゃいけないよ」


 冬真は腕を振りほどこうとするが、彼女の柔らかな胸の膨らみに腕が当たってしまい硬直する。顔を赤くしてオロオロと動揺している冬真を見て、月光はクスクスと笑った。


「ふふふ。冬真先輩って可愛いですね。私も誰にでもこんなことはしませんよ。先輩だけです」

「それって」

「はい。先輩のこと…」


 これは告白の流れなのか。顔を赤らめて恥ずかしそうにしている月光を見て、冬真の心の中は期待や恥ずかしさでごちゃごちゃになる。ドキドキと心臓の音が大きくなる。緊張が高まり、ごくりと喉を鳴らす。

 覚悟を決めたような顔をして、冬真の目を見つめ、口を開く。


「私は、先輩のことを”無害認定”しました!」

「…はい?」


 可愛らしく告げる月光の言葉が理解できなかった。好きという告白ではなく、無害認定という告白。要するに、遠回しにヘタレと言われたのだろうか。


「月光さん? それはどういった意味でしょうか?」

「そのままの意味です。先輩は”無害のヘタレ”です」

「ぐはっ!」


 気にしていることを女の子に言われるとグサッと突き刺さる。冬真が学校で地味に過ごしているのも、女子とかかわる勇気がないからである。一撃でHPがレッドゾーンに突入するが、胸を押さえながら必死に持ちこたえる。


「へ、ヘタレの証拠はど、どこにある!」

「その反応から自分がヘタレと言っているようなものですが。まず、怪我の手当てをしているとき、私に欲情しても必死に理性で抑え込んだところです。二つ目は、腕を組んだ時、声を裏返して顔を真っ赤にしていたからです。三つ目に、私の胸が当たった時に固まって動かなくなったからです。以上のことから、私は先輩のことをヘタレ先輩と認定しました」


 全てバレている。女の子は男の視線に敏感だと聞いていたが、これほどとは思わなかった。

 月光は人のことを普段から良く見ているのだろう。それに、美少女なのだから周りからもよく視線を向けられているはずだ。

 そんな彼女に、短い間で腕を組むくらい信用されたことに対して喜ぶべきか、それともヘタレと言われたことを恥じるべきか悩むところだ。

 冬真のHPはギリギリ1残っている。


「それに、私に腕を組まれると普通の男性は嬉しがると思うんですけど。手をつないだり、私の胸の感触を堪能したりしますよね、普通。でも、先輩はしませんでした。先輩は学校でも女子とかかわりがないように地味な格好して過ごしていませんか?」

「…」

「その反応、図星みたいですね」


 年下の少女に冬真のHPは全て削られた。


「まぁ、無害認定した最大の理由は、勘、ですかね」

「女の勘ってやつか」

「違いますよ。乙女の勘です!」


 冬真には何が違うのかわからなかったけれど、聞き返すことはしなかった。


「というわけで、エスコートをお願いしますね、先輩!」


 月光が可愛らしくおねだりしてくる。演技しているようには見えない心からの笑顔だ。しょうがないな、と冬真は思う。


「言っておくが期待するなよ。俺は女の子をエスコートするは初めてだ。それでもいいか?」

「はい! よろしくお願いします!」


 腕を組んだまま二人は寄り添って歩き出す。

 つい数十分前には他人だった少女と出会ったことでこれからの運命が変わる。

 月光と腕を組みライトアップされた満開の桜を見ながら、なぜか冬真はそんな気がした。


お読みいただきありがとうございました。

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