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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

第一次宇宙戦争とうなぎのかば焼き

作者: 高城拓

 2040年12月に始まった第一次宇宙戦争は、4年半に渡って続き、侵攻してきたエイリアン艦隊――ヴォイド連合長距離植民先遣艦隊の全面降伏という形で幕を下ろした。

 ヴォイド連合の圧倒的軍事力により地球文明は崩壊さえ危惧されたが、開戦2年目の夏、日中を中心とした東アジア連合軍の地上反攻は大成功を収めた。その年の暮れに行われた嫦娥作戦――オペレーション・ムーントラバースによりヴォイド連合月面橋頭保が陥落。戦闘自体はその後1年半にわたって続いたが、戦争の帰趨はその時に決せられた。

 ヴォイド連合長距離植民先遣艦隊の全面降伏から5年後、太平洋はハワイ島のアリゾナ・メモリアルにて地球・ヴォイド連合の終戦条約と安保同盟条約、通商条約が締結され、戦争は正式に終結した。

 地球連合からの出席者はアメリカ、中国、日本、台湾、インドネシア出身者が中心で、隕石爆弾で荒廃したヨーロッパ諸国からの出席者はまばらだった。

 一方のヴォイド連合は、敗戦の責を取り自決した先遣艦隊司令に代わり、先遣艦隊副指令、先遣艦隊付大司教、おなじく先遣艦隊付大司裁に加え、ヴォイド連合中心移民艦隊から赴任してきた駐地球大使、外事大臣に加え連合副主席までもが列席するという異常といえるほどの分厚い陣容でこれに臨んだ。

 ヴォイド連合は地球文明からすると魔法としか思えないような科学力と数万年にわたる文明の歴史を持っていたが、地球連合との条約調印に当たっては異様なまでに地球の立場をおもんぱかる姿勢を見せ、地球各国の外交担当者たちはこれを大いに訝しんだ。

 いや、それは言い過ぎかもしれない。

 条約調印会議に臨んだ地球側担当者たちのうち、東アジア連合の者たちは異常に落ち着き払った態度を取り、また、ヴォイド連合は彼らに対して大いに怯えた態度を取っていたのである。



「終戦に」

「終戦に」


 終戦条約締結から8か月後。

 キャスパー海兵隊大佐は人民解放軍陸戦隊のマ大佐とホテルのロビーでグラスを合わせた。

 そのまま小ぶりなショットグラスを一気に煽る。ヴォイド・モルトの痛快な香味と強烈なアルコール臭が鼻孔をつき抜け、二人は満足げなうめきを漏らした。

 ヴォイド人と地球人の消化器系と代謝機構は非常によく似通っており、特にアルコール飲料については多くの地球人がヴォイド連合産蒸留酒の虜になりつつあった。


「いや、これはたまらんな。この一杯にありつけただけでも戦争を終わらせた意味がある」

「全く、然り」


 二人は25年前の交換留学生プログラムで知り合い、酒とJ-コアと呼ばれるテンポの速い電子音楽、それにニジゲン好きという点で友人になった者たちだった。海兵隊と人民解放軍陸戦隊という同職種というのも影響している。

 彼らは第2次朝鮮戦争の間こそ連絡を取り合わなかったが、それ以外では全く健全な友人関係を続けていた。

 この日はマが1週間後にヴォイド連合駐在武官の一人として旅立つのを祝う、いわば壮行会というところだった。


「しかしこれは、いったいどこで手に入れた? ヴォイドの酒は流通しているものを全て味わってみたつもりだったが、これは呑んだことがない。飲んだことはなかったが、突き抜けて高級な酒だと分かる」


 キャスパーは二人の間に置かれていた瓶を持ちあげ、しげしげと眺めた。アラビア文字でもキリル文字でもない、解読の難しい字。


「これは嫦娥作戦の戦利品だ。私とケンジとジャイラニで、ヴォイドの司令公室から分捕ってきた30本のうちの一本だ」

「ケンジ? ジエイタイ水陸機動団の?」

「そうだ。ジャイラニはこないだ君もあっただろう、インドネシア海兵隊の」

「ああ、あのすごい目つきの。俺と一緒にいたシールズのやつが縮み上がってたな」

「うん。ジャイラニはすごいぞ。絶対敵に回したくない」

「ふぅん」


 キャスパーはマと自分のグラスにモルトを注ぐと、瓶を置いた。

 

「まぁいいや。もう一回いこう」

「今度は何に乾杯する?」

「みつばちゃんねる復活、とか」

「そいつはいい。マレーシアも復興して、みつばのサーバも復活したからな」

「みつばちゃんねるに!」

「このロリコンどもめ!」

「ばっかお前www草生えるからやめろwww」


 ふたりはみつばちゃんねると単眼の魔神に乾杯を捧げると、気の置けない馬鹿話を始めた。

 


 しばらく経って酔いも回り、話すことが少なくなってくると、二人は黙々とグラスを口に運び、煙草を吹かすだけになっていった。

 ややあってキャスパーがしみじみとつぶやいた。


「結局こないだの戦争はさ、お前たちアジア人の独壇場だったよな」

「そうかな」

「そうだよ。知らないのか? 俺たちはお前たちにすごく感謝してるんだ。俺ら海兵がグアムの山中で穴ぼこ掘って隠れて震えて、本国じゃ生き残りのB2とB1-Bに核を搭載して俺らごとヴォイドを焼き尽くす決意をした次の日、ヴォイドどもが雪崩を打って俺たちに降伏してきたんだ。俺たちは死なずに済んだ。その結果をもたらしたのはお前たち東アジア連合だ。本国じゃまたぞろ黄禍論が吹き荒れてるが、俺はお前たちに感謝してる。ありがとうな、マ」

「感謝されるようなことじゃない。戦争だったんだ」

「そうかな」

「そうだよ」


 マは薄く笑うと、キャスパーのグラスに注いでやった。

 キャスパーはそれを見るともなく見つめ、ちびりと舐めた。


「ところでさ、お前たちはどうやってあいつらを打ち破ったんだ?」

「戦闘記録は公刊されてるだろ?」

「うん。戦術面、作戦面については理に適ってると思う。でも、確かあの作戦は台湾奪還作戦の成功がきっかけで立案されたとは聞いてるが、完全に失敗していた台湾奪還作戦が成功した理由がよくわからない。そういえばお前とケンジは台湾奪還作戦からの知り合いだったよな?」


 マはしばらく空中に視線を泳がせ、顎を撫で続けていたが、そのままキャスパーに目を合わせることなく、ポツリ、とつぶやいた。


「うなぎだよ」

「うん?」

「うなぎのかば焼き。俺たちはうなぎのかば焼きを毎日食べてたんだ」

「どういうことだ。日中台合同の逆襲部隊は上陸直後に高雄で二重包囲されて、飢餓に陥ったと聞いてるが」


 マの返答にキャスパーは戸惑った。

 マの口元には微笑が張り付いているが、目元は笑っていない。


「逆襲部隊、ね。そうならどんなに良かったか。俺たちはただのボートピープルみたいなもんだったよ。コメも肉も野菜も底をついて、傷病兵や避難民が栄養失調でバタバタ死にはじめたころ、俺たちは思い切ってうなぎを食べ始めたんだ。ケンジは最初からうなぎばっかり食べてたが」

「海にも出ずに?」

「ああ、なにせうなぎはそこら中にいたからな。脂のよく乗ったやつが。いや、うん、本当にうまかったんだ。病みつきになって俺たちは毎日うなぎを食ってて、気がついたら台湾からうなぎはいなくなっちまった」


 キャスパーはマの話に大きな大きな矛盾があることに気が付いた。


「ちょっと待てよ。マリアナで産卵してたニホンウナギはとっくの昔に絶滅したはずだぞ。台湾の養鰻業者も全滅したはずだが」


 それを聞いたマが身を乗り出し、ようやくのことでキャスパーに視線を合わせた。


「でも、うなぎはそこら中にいたんだ」

「……」

「ああ、もう一度たべたいなぁ、うなぎ」


 そう言ってまた視線を逸らせたマだったが、その目はどこか遠くを眺めていた。



 次の日、キャスパーはふと思い出して佐田健司陸上自衛隊大佐(第2次太平洋戦争で階級呼称は旧軍式に戻った)に電話を掛けた。キャスパーとケンジは中学のころからのニジゲン仲間でもあった。

 だから自分ではただの世間話のつもりの話に、旧友が妙な態度を示すとは思っていなかった。


「ああ、マとはヴェトナムでまた一緒になったな。うなぎ? ああ、喰いまくったよ。それがどうかしたか?」


 昨日マと出会ってウナギの話を聞いたんだが、とキャスパーが切り出すと、ケンジはやけに明るい声色を返した。


「ヴェトナム反攻作戦じゃ、ずいぶんたくさんうなぎを食ったな。ゴールデントライアングル地域、あそこを制圧した時は稚魚から成魚まで、いろんなうなぎが食べ放題だった」

「あんな山奥にうなぎはいないだろう。それにうなぎの幼生は深海にしか住んでいないはずだ」

「居たから食えたんだって」

「ふぅん。そんなに旨かったのか?」

「うまいも何も! 俺がガキの頃にはすでにうなぎなんて食えるのは一生に一度の快事でさ。8つのころに爺さんの米寿の祝いで食べさせてもらったのがひどく旨くて。もう二度と食べられないんだろうなと思ってたけど、まさかあんなに食べられるとは思ってなかった」

「飽きなかったのか?」

「あんなうまいもん、食べ飽きるなんてことがあるかよ。九州でも沖縄本島でも、台湾でもうなぎだけは食べ放題だった。ヴェトナム反攻作戦でコメと一緒に掻きこんだ時のことは、今思いだしてもよだれが止まらんね」

「へぇ。そんなに言うなら一度食べてみたいな」

「ヨーロッパウナギなら食べられるだろ? あれもなかなかオツだ」

「イギリスでゼリー寄せ食べたときは吐きそうになったけど」

「ありゃあブリテン野郎の舌がぶっ壊れてるせいだ。腕のいい職人に焼かせたかば焼きに白焼き、それとうな重を試してみろ。最高だぞ。まぁ、ヨーロッパウナギも今じゃほとんど手に入らないが」

「そうか。今度結婚記念日に出も試してみるよ。そうだ、話は変わるけどヴォイドの月面基地攻略戦のときに酒を何本もかっぱらったって聞いたが」

「なんでそれを。ああ、マに聞いたのか。そうだよ。いやあ、スコッチ・ウィスキーそっくりの酒を見つけたときは感激で泣いちまったなぁ。隕石爆弾のせいでウィスキーはアイラもスコッチも手に入らなくなったうえに、サントリーやニッカも高騰したからな。焦げ目ができるほど焼いたうなぎの白焼きに塩をぱらっと振ったやつと、ヴォイド・ウィスキーがまた合うんだこれが」

「それはどこで試したんだ?」

「もちろん、ああ、その、家に戻ってから試したんだ」


 言い淀んだケンジに、キャスパーは違和感を覚えた。


「マの野郎、うらやましいな。うなぎをまた食べられる機会があるかもしれないんだ、あいつは。本当にうらやましい」



 さらに次の日、太平洋軍指令部に顔を出したキャスパーは、ばったりと別の知り合いに出会った。

 連絡将校として派遣されてきた、インドネシア海兵隊のジャイラニ中佐だった。

 昼時だったので昼食を共にしようというと、ジャイラニは素直に従った。


「うなぎの話? 自分はその話はしたくありません」


 世間話のつもりでだしたうなぎの話に、ジャイラニは強い拒否反応を示した。

 目をぱちくりさせるキャスパー。


「食ってないのか?」

「……食べましたよ。ひどく旨かった。でもその話はしたくない」

「どうして」

「答える義務はありません。退席してもよろしくありますか? 大佐殿」

「うん、すまない。退席を許可する」


 ジャイラニはひどく気を悪くした様子で立ち上がり、すたすたと大股で歩み去っていった。

 


 その日の夜、帰宅途中のキャスパーの携帯電話に「戦時中のアジアの食糧事情を追求するな」という電話があった。番号は非通知で、音声は合成音声だった。

 一人暮らしの借家に戻ると、飼っていた犬が内臓を抜かれて死んでいた。


 アジア連合の地上反抗は九州、オキナワ、台湾、ヴェトナムから始まり、日本本土、台湾対岸の大陸側中国本土、タイ、マレーシアに広がっていった。

 特に異常な進展を見せたのは日本本土と中国本土。インドネシアはそれとは別だったが、同時期に反攻作戦を開始した。進展の速度も似たようなものだった。

 いずれの地域もヴォイドによる海上封鎖の影響で食糧事情はひっ迫し、人肉食が行われたという非公式の報告があるが、反攻開始と相前後して食糧事情は劇的な改善を見せている。特に海産物の水揚げ量でそれが顕著に見られた。ヴォイドの占領地は海沿い、次に河川沿いに広がっていたから、当然であろう。

 同時期のアジア諸国軍の人員構成は少子高齢化の影響で20代が極端に不足していたが、特に日本軍は本土開放戦の前後で50代以上の中高年の志願入隊が激増しており、数字で見る限り2042年以降の人員充足率は常に100%を上回っていた。

 この時ジエイタイは歩兵用の新型強化外骨格の運用を開始しており、志願入隊した中高年はそれにより多大な成果を挙げた。日本本土反攻作戦とヴェトナム反攻作戦では莫大な損害を被ったが、ヴォイドに与えた損害は我の損害の7倍を上回っていたという。

 ここでなぜ彼ら日本の中高年は我先に軍へと志願したのかという疑問が残る。就職氷河期世代と呼ばれた集団失職世代が最後の賭けに出たのだ、といううわさもあったが、その明確な答えはいまだに得られていない。

 

 嫦娥作戦は地上反攻が完了しきらないうちに準備がはじめられた。

 中国と日本の共同製作による超大型月往還船50隻に、人民解放軍海軍陸戦隊とジエイタイの水陸機動団、インドネシア海兵隊やマレーシア海軍陸戦隊などが重装備とともに1200人ばかり押し込められて、中国の南沙基地、現在のスプラトリー国際宇宙港から出発した。

 特筆すべきは50隻の月往還船のうち、無事月面に着陸した38隻が全て何らかのペイロードを満載して参加各国に帰還していることである。その内訳は、ヴォイドの兵器や物資、技術情報、さらに多数の捕虜であった。

 捕虜については戦後解放されたが、解放された人数はけた外れに少なかった。各国政府、特に日本はヴォイドと地球人類の生育条件の違いによる喪失だと説明していた。捕虜だった者たちは、地球人の耳の届く範囲では一切発波しなかった。

 


 マがハワイを出発する日、キャスパーはホノルル国際宇宙港の展望デッキから、マを載せて浮上するヴォイドの軌道連絡艇を見送った。

 展望デッキには何百人もの見物客が居た。その2割ほどはヴォイドだった。黒褐色の制服を着こんでいるから、おそらくは軍人であろうかと思われた。

 そのうちの一人の頭部の斑点に、キャスパーは見覚えがあった。


「ルベルトシュライン!」


 呼ばれたヴォイドが緊張した顔つきできょろきょろとあたりを見回し、軽く手を挙げたキャスパーを見つけた。明らかにほっとして、周囲のヴォイドたちを引き連れて足早に近づいてきた。

 彼らの周りには中国と日本のMPが護衛として付きまとっていた。


ェヌベサンチマ(連隊指揮責任者)、キャスパー。久しぶり』

「ああ、久しぶりだ、カーネル(大佐)・ルベルトシュライン」

『キャスパー、私の名前はnlhvbretschl:ainmだ。いや、きみたちに発波は難しいと思うが』

「それを言うなら俺だってkyasshupaarrじゃなくてCasperだ。どうだ、発音できないだろう」


 二人はユーモアを交わし、キャスパーは5本の指の握りこぶしで、ルベルトシュラインは7本指の拳を上下から軽く打ち付けあった。ヴォイドの握手に相当するしぐさだった。

 彼らはグアムで知り合った仲だった。洞窟陣地から顔を出したキャスパーに白旗を見せ、降伏受け入れと部下の保護を求めたのがルベルトシュラインだ。

 ヴォイド人はぷるぷるとした表皮が特徴的な、直立歩行生物だ。手足は二本ずつ、尻尾があり、頚部にくびれは無くなで肩である。頭は丸い。おちょぼ口は案外大きく開く。歯は薄いのこぎり様の歯列が上部4列、下部に3列並んでいた。眼球は退化しており、蜘蛛のような解像度の低い複眼を4つ持つ。耳や声帯は無い。その代わり、フェイズド・アレイ・レーダーのような幅の広い帯状の器官が、頭部を半周覆っている。彼らは電波と近赤外線で物を見、電波を聞くのだ。

 事実、ルベルトシュラインの首と呼ばれるべき部位にはマイクとスピーカーとアンテナを備えたAI翻訳機がぶら下がっている。設計も生産も中国の新興企業の手によるものだ。技術はヴォイドのものだったが。


「ルーベ、君はこちらに駐在か」

『そうだ。しばらくは太平洋軍司令部に世話になって、それから君たちの国連安全保障理事会にオブザーバーとして参加することになる』

「へぇ、やったな。出世コースじゃないのか? それは」

『さて、どうだろう。君たちとは文化と文明が違いすぎるからな。でもまぁ、君という友人を得たおかげではあるとは、思っている』

「そうか。このあと予定は?」

『5分、立ち話でよければ』


 かまわんよとキャスパーは言うと、憲兵たちに5分ほど離れてくれと頼んだ。

 憲兵たちは鼻で笑いながらそれを了承し、日本兵はなにごとか声に出さずにつぶやいた。

 キャスパーは憲兵たちがすっかり向こうへ行ってしまうのを確認してから、ルベルトシュラインとの会話を再開した。彼はあきらかにほっとしたようだった。


『ありがとう。どうも彼らがいると落ち着かなくて』

「ついこないだまで敵国だった連中の憲兵に囲まれるとなれば、当たり前だ。俺たちは君たちからしたら信じられないほど野蛮で遅れているが、その分何をしでかすかわからなくて怖いだろう?」

『そこまで卑下することはないだろう。少なくとも君と君の部下たちは、私にとってタフで誇り高い、紳士的な好敵手だったよ。紳士的、というのは私たちの概念にはないが』

「そこまで持ち上げられると、こそばゆいな」


 それから二人は僅かばかりに世間話をした。お互いの生活環境や文化についてが主だった。

 途中、ルベルトシュラインは、ところで君はうなぎというものを食べたことがあるか、と聞いた。

 キャスパーが、まずくて食えたものじゃなかったが、と答えると、ヴォイト人たちは明らかに体を強張らせた。



 約束の時間が過ぎ、憲兵に付き添われとぼとぼとその場を去りかけたルベルトシュラインに、キャスパーは背後から声を掛けた。


「俺はもううなぎは食べないよ」


 ルベルトシュラインはこっくりとうなずくしぐさを見せ、


『だから私たちは君たちの部隊に投降したんだ』


 と答えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] うなぎが好きなだけ食えたのか(笑) それなら俺も参加します。 なんといっても全滅したうなぎが宇宙から沢山やってきたのだし(笑)
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