第5話 美緒の所在と雄太の絶望
1年後
「雄太君、そこにある書類を10部コピーしてくれないか?」
楓さんにそう言われた俺は応答して、書類を手にコピーしに行った。
あれからもう1年が経っていたが、いまだ美緒は帰っては来ていない。
あの後、俺は様々な手を講じたものの、美緒は見つからず途方に暮れていた。
そんな時に楓さんが助けてくれた。
楓さんは全然連絡がなかった俺を心配して電話をくれて、
俺は楓さんに全てを打ち明けた。
普通だったら関わりたくないと思うだろうが、楓さんは違った。
親身に相談に乗ってくれて、更にはこうして雇ってくれた。
雇ってあげると言われた瞬間は、ありがたいと思う反面、
申し訳なさでいっぱいだった。
雄太は楓さんには裏があると思っていた。
しかし、そうではなかった。
なんと楓さんも昔雄太と同じように高校時代に事故に遭って、
一時期死の淵に立たされたらしい。
しかしリハビリの結果、徐々に元の状態になっていった。
そしてその時に就職活動をしたのだが、
雄太と同じくうまくは行かず苦労した。
しかし最後の挑戦で無理だろうなと思って受けた
この常盤工業でなんとか内定をもらえ、
そこから20年間必死になった結果、今は専務の地位にいるようだ。
そう。雄太と同じ境遇だったのだ。
だからこそ、美緒は楓さんに電話をかけて、俺の事を話してくれたのだろう。
そのおかげで、今は楓さんの秘書として働くことができているのだから。
気が付けば、外も暗くなっていた。
最近は仕事に慣れてきて楽しいからなのか、
時間の経過が速く感じるようになっていた。
美緒がくれたようなこの仕事をこれからも大切にしていこうと思う。
そしていつか美緒が帰ってきてくれた時には、ごめんねとありがとうを言おう。
そう考えるようになっていた。
仕事も終わり、会社を出たときだった。
突然携帯電話が鳴り、画面には美緒の母親の名前が映し出されていた。
もしかして美緒が帰っているのか、その期待を込めて電話に出たが、
その期待を裏切るかのようなどんよりした声が聞こえてきた。
「あ、雄太さんね。電話に出てくれてよかったわ。
ちょっと来てほしい場所があるの」
俺は「少し、待ってください」と言い、
カバンの中から素早くメモ帳とペンを取出し、
母親の言葉を一言一句漏らさないように聞いた。
指示された場所は国立病院だった。
雄太はその場所に不安感しかなかった。
「あの、おかあさん。ここに行ったら何があるんですか?もしかして美緒が」
いるんですか。そう聞こうとした瞬間、電話が切られた。
電波が切れたのかと思い、もう一度電波のいいところで電話をかけ直すも、
美緒の母親は出てはくれず、雄太は不安感を拭うために母親に指示された場所に向かった。
着いたのはそれから2時間後だった。
俺は病院に入ると、遠くの椅子に美緒の母親がいることを見つけ、近づいて行った。
「あの、おかあさん。来ましたけど、どうかしたんですか?」
そう声をかけると、美緒の母親はこちらを向いて、俺をじっと見た。
その様子を俺は不思議に思ったが、すぐさま彼女はある一点を指差したので、
その方向を見る病室があった。
「え~と、ここに入ればいいんですか?」と尋ねると、頷かれた。
雄太は恐る恐るドアを開き、すぐに固まった。
最初はどういうことなのか、分からなかった。
しかし徐々に理解した雄太は膝から力が抜けたため、座り込んでしまい、
立ち上がることができず、目からは今まで流したことにないほどの涙を流した。
ベッドの上にいたのは美緒だったが、いつも見てきた美緒の姿ではなかった。
生命維持装置につながれたまま、無表情のまま寝ていたのだった。
あの純真無垢な笑顔もあの健康そうな姿もどこにも見当たらなかった。
そう、美緒は植物人間となっていたのだった。
俺は涙を流した。
雄太がもう一度会って、ごめんねとありがとうと言いたかった
美緒に会うことは叶った。
しかし、そこで会った美緒は雄太が予期していたものとは
全く違った最悪な姿だったのだ。




