兄の妖しいフェロモンで、私の彼氏が誘惑されている件について
乗りで……以下略。
南雲千鶴17歳……現在私は自分の部屋のドアの前で、硬直しています。
何故かって?ふふ…ふふふ…中から私の彼氏の良太と、兄の千尋の妖しい声が聞こえてくるからだよっ!!
「やっ……千尋…さっ……あうっ………」
「ふふ…良太の……もうこんなになってる……」
「うわっ……そこは……だっ…ダメですよっ!」
そこって、どこや!
開けた方が良いのか、開けない方がいいのか……。
私がドアの前で葛藤をしている間にも、中の二人は盛り上がって行く。
「大丈夫だ…。俺もこんな………だし?」
「ううっ……。おっきい………」
あん?何がおっきいんだ、コラァッ!てか、お前らそこは私の部屋だし、良太に至ってはお前……私の彼氏だろ?いい加減止めれっ!!
「……こんな事してるのが、千鶴にバレたら………大変だなぁ?」
大変だと本気で思ってるならば、今すぐ止めろっ!!
「あうっ……ダメッ!そっ…そう言えば、そろそろ…千鶴ちゃんが戻って……戻って来ちゃうからっ………」
……………………もう戻って来てますがね?
良太の奴め……どうやら私が居ることを忘れやがったな?
しかも私が、キッチンで飲み物とお菓子を用意している間に、兄さんととんでもない事になってやがるし。
私は決断をした。部屋に突入すると!
はぁ~。何が悲しくて自分の部屋に入るのに、ノックをせにゃならんのか?
私は溜め息を付きながら、片手で部屋のドアを数回ノックした。
コンコン………。
「ねぇちょっと、良太~?いま私、両手が塞がっちゃってるの。だからドアを開けて~?」
片手でも即、ドアを開けられますが、中の二人がどんな体勢なのか判別がつかんので、一応部屋の外から声を掛け、開けてもらうことにする。
しっかし……何でこんなに私が気を使う必要があるのか?まったくもって解せぬ。
「……っ!!ちっ…千鶴ちゃんっ!ちょっ…ちょっと…待って!す……直ぐに開けるからっ!!」
良太はそう返事をしたが、待てども待てどもドアは開かんし、中からカチャカチャとズボンのベルトの音や、なにか…そう、フ○ブリーズ的な物を吹き付けるシュッ…シュッ…って音がしてる。
はい、間違いなく真っ黒ぉぉぉぉぉぉぉ~!!!
限りなく黒に近い漆黒やっ!!って、そりゃ黒だ。
そうして数分後……ようやくドアが開けられた。
「千鶴ちゃん…。ごっ…ごめん…ね?」
ドアを開けたのは良太であった。
パッと見普通のようだが、妙に頬が赤くなっていて、目も潤んでいた。
そして何よりも……お前……ズボンのチャックが全開だぞ。
さっきはベルトのカチャカチャしか聴こえんかったが、どうやら慌てて履いたせいで、閉め忘れたんだな?このうっかりさんめっ!けっ!
「ごめんねって……?何に対しての謝罪?」
私は裏切られた事により気分が最悪だったので、良太のうっかりな発言の追求をしてしまった。
「えっ…?いや、その、あの~……………」
良太……悲しくなるほど嘘がつけん奴だ。
目がザバザバ泳いでるぞ。
「良太………貴方にお話があります」
「えっ?えっ?な……なに?」
私はビクビクする良太の肩に優しく手を置くと、キッパリと言いはなった。
「私たちお別れしましょうっ!!!」
「ええっ?ど、どうして?」
どうして、と問いますか?理由は自分の胸にでもお伺い下さい。
すると、ワタワタと慌てふためく良太の背後から、兄が良太を抱き締めながらこう言った。
「あ~あ………良太可哀想。千鶴がもう要らないなら、俺が貰っても良いよなぁ~?」
兄はそう言うと、良太の首筋に舌を這わせながら、私を嘲笑うかのように微笑んだ。
「あうっ………やっ!止めっ……ひゃうっ!」
艶かしい良太の声が部屋に響く。
くっそ!このヤリチンの淫乱兄めっ!私が要らないんじゃないんだよっ!分かってて言ってるよな?たち悪いなぁ…ちくしょう!!
お前のビジュアル&フェロモンだったら、他にも適当なの取っ替え引っ替えの入れ食い状態だろっ!
何もワザワザ私の彼に手を出さんでもよかろうがっ!!!
そう、兄は超絶美形であった。艶やかな黒髪はいつもサラサラとしており、キリッとした二重の瞳に、スラリとした鼻梁……唇は麗しくもスッキリとしている。そして目元に泣き黒子があり、それが妖しいフェロモンの効果を倍増している。
妹の私にはそのフェロモンは、まったく通じないのだが、他人には男女問わず凄く効いてしまい、正に今のような事態を度々引き起こすのだ。
兄のフェロモンの効果は絶大で、私の友達は勿論、父の同僚や後輩、母のママ友、果ては訪問販売のセールスマン等も毒牙(?)に掛けてきた経歴の持ち主だ。
そして兄事態が、このフェロモンを嬉々として使っているので、たちが悪い。
普通は好きでもないのに、フェロモン体質を持って生まれたら、悩んだりするのだろうが、この兄にはそんな普通の感覚が皆無であった。
被害を最小限にするために、兄以外の家族たちは、友人を家へは呼ばない事にしたのだ。
全て兄に喰われるから。
だがそれにより、我々家族の友人への被害は、激減した。
私がそんな両親との約束ごとを破ってしまったのは、初めて出来た彼氏に浮かれていたからだ。
そして予定だと、兄は今日から大学のサークル(という名の兄を崇め奉る信奉者の集い)で、旅行に行く筈であったので、つい………気の弛みが出てしまったのであった。
旅行には行かなかったのだろうか?
まぁ今となってはもう、どうでもいいですけどね?
「…………それ以上の事をするのならば、ご自分の部屋でどうぞ?」
我ながら驚いたが、凄く尖った冷たい声がでてしまった。でもしかたないでしょ?
私が考え事をしていた間に、兄が良太のズボンの中に手を突っ込み初めていたのだから。
「ふ~ん……。じゃあ良太…俺の部屋に行って、続きをする?それとも、コレ……止める?」
良太のズボンの中で動かしていた手を止めて、悪戯そうに笑いながら良太にこの後、どうするか確認する兄。
「あっ…ああっ………止め…………」
えっ?良太よ、今何て言った?止め……って、止めてか?止めてなのか?そうであって欲しいっ!
兄のフェロモンにクラッときただけであって、理性が打ち勝って欲しい………。
私は若干期待した。
「やっ…止め……止めないでぇ~~~~!!」
そしてその期待を粉々に粉砕された。
はいはい……うん、まあ分かってた。
この生まれて17年、このフェロモン体質の淫乱兄と、兄妹をしてきたのだ。
で・す・よ・ねぇ………………。はぁ~。
「ふふっ…良太は正直だね?じゃあ、行こうか?」
兄は私を嘲笑うかのように、歪んだ微笑みをうかべて、良太の肩を抱きながら部屋を出ていった。
バタンッ……。
ドアの閉まる音と共に、私はその場に崩れ落ちた。
自分の判断ミスは否めなかったが、それにしても酷すぎるだろっ!
神様とやらがもし、居るのならば出てきて私に謝れってんだよっ!
ちくしょうっ!ちっくしょぉぉぉぉぉ~!!!
そして暫くすると、私のライフポイントを更にガリガリと削る声が、隣の兄の部屋からうっすらと聞こえてくる。
「あっ……あんっ……。ひゃうっ………あ……」
「ふふっ。良太はここが弱いんだろ?」
「んっ………あああっ………っ………っ………」
「大丈夫だ。俺の口に……出しな?」
おぎゃぁぁぁぁぁ~~~~~!!!
奴らマジでおっぱじめとるぅぅぅぅぅぅ~~~!!!
傷口に塩を……塩を容赦なく塗りたくってきよるっ!鬼やっ!悪魔やっ!
きっ…聴きたくねぇっ!!死ぬほど聴きたくねぇけど。隣の部屋だから聴こえて来ちゃうっ!
私は震える自分の足を、叱咤しながらフラフラ立ち上がると、部屋を………いや、家を後にした。
今夜は家には帰らない。否!帰れない。
こんな時に私が避難するのは、いつも決まってイトコの千砂の家だ。
千砂はイトコなので、兄のフェロモンは効きにくい(絶対じゃない)のだ。
私はスマホを取り出すと、歪む視界の中で千砂の番号をコールした。
数回のコール音の後に、千砂が電話に出た。
「もっしも~「千砂っ!今日家に泊めてっ!」し」
私は千砂に殆ど喋らせないで、自分の用件のみを告げた。
しかし千砂は動じず、ノンビリと答えた。
「別に……俺は良いけど。おじさんとおばさんの許可は取ってあるの?」
「直ぐに盗る…じゃない、取るから!お願いね?」
「了解だ」
私はすぐさま通話を切ると、母に電話をした。
「はいはい…お母さんですけど~?」
「あっ!お母さん?私だけど、今日千砂の家に泊まるからっ!良いでしょ?」
それだけの事で、もう今日は家に帰れない事を察した母は、溜め息を吐くと、静かにこう言った。
「はぁ……。また千尋ね?じゃあお母さんと、お父さんも今日はホテルに泊まる事にするわ。千砂くんに迷惑かけちゃダメよ~?」
「うん。分かってるよっ!じゃあ、明日……は学校休みだから、明後日の日曜日の夕方に帰るからっ!」
「そうね……それが無難よね~?じゃあ私達もそうするわね?」
そう言うと、母との通話を終える。
既に暗黙の了解なのだ。
次の日が休みだと、あの兄は野獣になるのだ。
手に負えない系の、な。
家の中の所構わず盛るので、家族の精神的な被害が甚大だ。以前など下着姿の美女が、キッチンでミネラルウォーターを飲んでたり、素っ裸のイケメンが兄の部屋から出てきたりとかが、日常茶飯事であった。
大学生になってからは、ホテルとか相手の部屋で事に及ぶのが多かったのだが、中学から高校時代が本当に酷かったのだ。
その度に我々、兄以外の家族はしばしば外に避難することを、余儀無くされたのだった。
***
私は千砂の家に着くと、インターホンも鳴らさずに玄関のドアを開けると、遠慮もせずズカズカと上がり込む。
「ん?速かったな~?おばさんどうだった?」
ノンビリそう聞いてくる千砂に、私の涙腺は決壊した。
「うわぁ~ん!聞いて千砂~!兄さん……酷いんだよ~~~!私の初めての彼氏だったのに、盗られちゃったよ~うぇ~ん!!」
千砂は私の頭を優しく撫でながら慰めてくれる。
「そうだな、辛かったな。よしよし………」
うううっ…………ううう………。うっ……うっ…。
私が少し落ち着いてくると、千砂はシミジミと遠くを見るような瞳で、話だす。
「まぁ、いつもと同じなら数日……持って1週間程度だろ?お前にも、その千尋の毒牙に掛かったお前の元彼も、災難だったなぁ~。その彼……元には戻らないかもな……」
そうだねぇ……。ぐすっ…。良太もある意味被害者だし、今後を思うと若干の同情は禁じ得ない。若干だがな。
兄は1度身体の関係を持つと、直ぐに興味を失う。
まあ淫乱の所以はここら辺にもある。
これまでの相手の全てが、数日から1週間位でポイされている。
が、そんな酷い扱いをされても、何故か相手は怒ったりもせず、寧ろ兄の信者になってしまったりする。(信者にならなかった人も、特に兄に怒りや憎しみは持って無いみたいだった)
兄……やっぱ最強じゃね?
そして兄の今後が心配だ。このまま行くと、新興宗教の教祖とかになって仕舞いそうだ。
あれっ?あの兄が入ってるサークルが、兄を崇め奉るサークルになってたな?
もう既に手遅れ気味だったかな?
だが、知らん。もう絶対に係わらない。絶対にだっ!
良太も月曜日に学校で会ってもシカトしてやるからなっ!ふんだっ!
ズビーーーーー…………。
鼻水が垂れっぱなしだった私の鼻に、千砂がティッシュを被せると、遠慮なく鼻水をかんでやった。
「よしよし……泣き止んで来たな~?俺が千鶴の元気の元を作って上げるよ」
えっ?本当に?わぁ~い!千砂のふっくらモチモチのホットケーキが私の一番の好物なのだ!
「ずずっ…。ねぇねぇ、生クリームたっぷり?後、ベリー系の果物もちゃんとある~?」
私がニコニコ微笑みながら、聞くと千砂はふふっと微笑むと、優しくこう言った。
「ちゃんと用意してあるよ!ストロベリーにラズベリー、クランベリーにブルーベリー……後はブラックベリーもあるよ!」
ふわぁ~!大奮発だ!やったね~。わ~いわ~い!
「千砂、いつもありがとね!」
「可愛いイトコの頼みだからね?それに千鶴は何でも美味しそうに食べてくれるから、作りがいがあるし、ホットケーキなんて大好物だよね?」
「うんうん。そのとぉ~りっ!でも好きなのは千砂が作るホットケーキだからね?そこは勘違いしないで欲しいっ!」
私が、恥ずかしいのでそっぽを向いて、褒めると千砂は本気で嬉しそうに笑い、袖を捲った。
「あははっ……嬉しいことを言ってくれるなぁ~。んじゃあ作りますか~」
千砂は料理人なので、料理が超絶美味しい。
いつも千砂の家に避難すると、美味しいものを食べさせてくれたので、私はすっかり餌付けされてしまっていたのであった。
この後、千砂に最高に美味いホットケーキを作ってもらい、楽しい休日を満喫したのであった。
兄のフェロモンがどうにもならないなら、耐性がある千砂と結婚しても良いかもっ!?
このデリシャスなホットケーキが毎日食べれたら、それだけで幸せだし、その……千砂の事は嫌いじゃないし。
名案が閃いた私は、さっきまで泣いていた事も忘れて、御機嫌でホットケーキを8枚も完食したのであった。
簡単なその後
千鶴→宣言通り、千砂といい感じになり、最終的にはゴールイン。千砂と結婚してなかったら、生涯独り身であった可能性が拭いきれなかった。本当に良かったね。
千尋→千鶴の予想通り教祖になった。相も変わらずポイ捨てしてる。信者も増え続け、何もしないで怠惰に暮らしている。千鶴と千砂の邪魔をしたりしたが、邪魔しきれず、二人が結婚してしまい不機嫌に。
天上天花唯我独尊な態度は生涯変わらなかった。
千砂→千鶴は憎からず可愛いと思っていたので、普通に付き合うことになり、そしてそのまま順調にお付き合いを重ねてゴールイン。千鶴を幸せにしてやれ、な?
良太→結局2日でポイ捨てされた。しかし信者にはならなかった。
そして月曜日に学校で、千鶴に会って謝り倒すも、許されず消沈する。
でも憎まれない性格なので、皆に慰められて立ち直る。
良太も最終的には結婚する。相手は就職先の会社の社長の娘。逆玉。
千鶴と千尋の両親→千尋のせい(おかげ?)で仲睦まじい。睦まじ過ぎて、千鶴に双子の姉弟が出来る事になる。おめでとさん。
って、所でしょうか?
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございます!
またどこかのお話で会えることを祈って?
アディオ~~~~スッ!!!