VR火星開発オンライン
つじつまが合わない訳ではないんです。
1日目
いよいよ、今日からこの『VR火星開発オンライン』を始める事になる。
開始にあたり、500億の借金って、ちょっと何これ。
これを返済しないと地球に帰れないって、無理ゲーじゃないよな。
さあ、始めよう。
【ヴァーチャル・イン】
まずは火星までの片道運賃が200億って、変なところでリアルだな。
次は活動モジュールか。
これはいわゆる宇宙服の事らしい。
それが50億……単位は何だ……円で良いのか?
そういう説明が無いのが辛いな。
後は生活ベース。
これは現地で住む場所の事らしい。
ここには水と空気と食料が供給される事になるらしいが、有料ってシビアだな。
月額2億……おい、単位を教えろよな。
後は作業小体か。
いわゆるロボットだな。
命令するままに動くロボットで、鉱物発見したら運ばせるとか、そういう用途か。
とにかく、オレは選択された鉱区……火星を500に区分したものらしい。
ここの開発をして、様々な鉱物を取得、それを売って更に開発をするというもの。
ちょっと地味なこれをどうして始めようと思ったのか、それは10日前の事になる。
☆
オレ達はネトゲ仲間でチャットをしていた時の事。
1人の奴が変わったネトゲを発見したと言う。
それが『火星開発オンライン』
早速にも別窓でサイトを見るのだが、これがどうにも地味だ。
開発して鉱物を売って資金に足してって、何が面白いのか分からない。
だけどそいつが言ったんだ。
「お前、これ、ヴァーチャルリアリティだぜ」
オレ達は慌てて見直した。
そうしたら確かにそう書いてある。
マジかよ、もう実装されるのかよ……確かに研究中って噂は知っていたけど。
そこで皆はその気になる。
誰が一番で抜けるか。
鉱区開発トップを目指して、契約50年の開発事業。
妙なリアルさを感じながらも、オレ達はこぞって参加した。
☆
そして現在に至る。
借金額は500億で計上されており、資金は148億になっている。
既に今月分の水と空気と食料の分は引かれているらしい。
このまま何もしなくても、75ヶ月で終わってしまう。
オレは早速、自分の鉱区の見回りから始める。
鉱物センサー片手に鉱区を回る……おい、早速、反応かよ。
作業小体に命じて掘削させる。
成分分析……鉄鉱石……ああ、火星では普遍的な金属か。
それでも無いよりはましと、小体に命じて掘削と運搬を依頼。
さて、何か珍しい鉱物は無いものか。
512日目
今日も朝から鉱物探し。
昨日の鉄鉱石の鉱脈は、かなり小さいものだった。
収益は8億程になりしはしたが、僅か4か月分の経費にしかならん。
そしてまたヒット……小体に採掘を頼み、オレはまた探して回る。
513日目
オレ、何でこんな事しているんだろう。
気付いたらこんな場所で周囲には誰も居ないんだ。
毎日毎日、鉱区の中をうろついて、鉱脈を探して回るんだ。
もうあちこち掘るんだけど、この鉱区は外れだったのかも知れないな。
1824日目
底のほうに大規模な鉱脈を発見し、小体を全員向かわせた。
有望金属らしいが、どんな儲けになるのか楽しみだ。
今日はちょっと贅沢をして、風呂に入るとしよう。
この世界では水は貴重品だけど、大儲けになるから良いよな。
2416日目
今日も風呂だ。
あれからレアメタルがいくらでも掘れる。
上空の衛星に向けて、今日も輸送をする。
毎日20億の収益が得られている。
借金も半分になった。
3125日目
レアメタル鉱脈の他に、宝石鉱脈が見つかった。
今日の売り上げは45億だと言われている。
もうじき借金が消えるんだ。
よし、風呂に入ろう。
5625日目
あれから酷い目に遭った。
活動モジュールが破損したんだ。
その交換に50億と思ったら、地球からの輸送費が200億だと言いやがる。
そんなの詐欺だよな。
だからついでに5つ発注したんだ。
何に使うかって?他の奴らに売りつけるんだよ。
そいつらも輸送費に悩むだろうから、100億プラスで売ればいい。
1つ150億で売れば、4つで600億、大儲けだ。
6217日目
作業小体を1体2億で換算してやったら、自分の小体が100に増えていた。
あいつらは5体で何とかするらしいが、そんなもんでやれたら苦労はしない。
今日の売り上げは80億。
もっともっと稼ぐぞ。
8714日目
また輸送を頼んだ。
生活ベースで一番壊れやすい部品。
10個頼んでおいたから、これも売って儲けよう。
どうもオレの鉱区が一番の売り上げになっているようだ。
さて、誰に売りつけようかねぇ。
12680日目
最近、どうにも疲れやすい。
毎日風呂に入るのに、どうにも疲れが取れない。
性処理システムの部品も交換したってのに、具合が良くないようだ。
売り上げが少し落ちているけど、まだ32億の売り上げはある。
まだまだオレがトップだ。
13740日目
今日はどうにも起きる気がしない。
小体に年間スケジュールを組み込んでおこう。
ああ、この際だから20年ぐらいが良いかな。
どうせ、やる事は毎日同じなんだから……
18250日目
『契約完了、契約完了、214鉱区、応答せよ』
☆
「214鉱区も死亡と。ふむ、あらかた死亡か」
「しかし、こんな事をして良かったんですかねぇ」
「ふふん、何を今更。そういうのは50年前の担当者に言いたまえ」
「それはそうですが」
「さて、生き残りは3名か。英雄だな」
「揃って老人の英雄ですか」
「君、英雄とは老人なのだよ。若者が英雄になるなど、どんなスペースオペラかね」
「では、表彰ですね」
「ああ、その前に暗示を解いてやりたまえ」
「え、それはさすがに」
「さあ」
「分かりました」
暗示が解けた面々は、現実を逃避して外に出る。
活動モジュールを着けずに……
「課長、全員死亡です」
「開発は順調だな」
「あの、死亡は」
「ああ、死体は片付けさせよう。それで、開発は順調だね」
「う……は、はい」
「ならいい。太陽系開発公団との取引があるから、私はこれで失礼するよ」
「は、はい」
(可哀想に……政府に騙されて火星に送られて、暗示でゲームと思わせて……いきなり現実を認識させて……これがこの国のやり方……酷い)
思い付くままに書きました。