手違いで異世界転移②
料理人である両親に育てられた僕は自然と料理に興味を持っていました。
十歳の誕生日に、子ども包丁とエプロンを両親からもらいました。周りの友達たちは誕生日に親からゲームなどをもらっているのになぜ、調理道具を誕生日に送るのか不思議に思い、母にきいたことがあります。
『だって私たち二人から生まれたツバサなら料理好きだと思ったからさ』
サチは違ったみたいだけどと、母は最後そう小さくつぶやき苦笑いをしていました。おそらくサチに僕と同じものを誕生日に渡して大泣きされたことでも思い出したのでしょう。
料理に興味がない人が包丁なんてもらってうれしいはずがないですもんね。その後両親はサチに謝り、人形を渡していました。
話を戻しますね。そんな料理バカ二人に育てられた僕は高校の時にはバレンタインデーの時に、ホワイトデーのお返しが目当てでクラスの女子全員からチョコをもらうモテ男に育っていました。
泣いていませんよ? ハンカチ差し出さないでください。
大学を卒業して就職してからも僕の料理好きは収まるどころか、自由に使えるお金が増えたことによってエスカレートしました。料理人を目指すことも考えたのですが、大学まで通わせてくれた両親のことを安心させるために、必死に勉強して公務員になりました。
そして仕事が終わりスーパーによって帰ったら妹のサチのことを魔法陣のようなものが連れ去ろうとしていたので、サチのことを突き飛ばしたら代わりに僕が魔法陣に中に引きずり込まれ意識を失ってしまいました。何言っているのかわからないって? 僕だってわからないよ。
意識を取り戻し、最初に目にしたのは百九十センチほどもある若いお兄さんでした。
「おまえは何者だ! こんな森の奥で何をしている!」
そう言いながら男は僕に大きな斧を突き付けてきました。
僕はお兄さんが最初何を言っているか理解が出来ませんでした。森の奥とはどういうことでしょうか、さっきまで家の中にいたはず……。
そこまで考えて僕は自分が魔法陣に飲み込まれたことを思い出しました。
「こんにちは、僕はツバサといいます。あなたは誰ですか?」
「黙れ人間、答える義理はない。」
「とりあえず紐かなんかでくくりませんかい?」
お兄さんの部下であろう人が僕のことを紐で縛りました。お肉の成型の為に紐で縛ることはありますが、僕が縛られる日が来るとは思いもしませんでした。ハムになった気分です。
そんなことを思いながらあたりを見渡すと、薄汚れた緑のテントのようなものやそこら中に転がっている剣や斧が見えました。
「人間、貴様王国の手のものか? それとも此処の周辺の村のものか?」
「いえ、僕は日本から来たものです。気づいたらここにいてなにがなんだか……」
「そんな名前の国は聞いたこともみたこともないぞ、お前、うそをついているのではないだろうな!」
さっきから人間人間うるさいお兄さんですねーさっき僕名乗りましたよね? そう思い僕は彼に抗議をするためにお兄さんのことを見上げました。
「犬耳……だと」
彼の頭の上には毛むくじゃらの耳がピョコンと生えており、僕の耳がある場所には何もなかったのです。もしかして人間じゃないのかもしれません。
僕があまりの衝撃で呆けていると
ぐー
そんな音が周りに響きました。僕じゃありませんよ? 目の前にいるお兄さんの方から聞こえました。
「もしかしてお腹減っています?」
「ああ、もう三日も干し肉とザワークラフトしか食べていない」
ザワークラフトとはキャベツの酢づけの事です。確かに保存食としては有用ですが、酢の味がキツくてすぐに飽きてしまいます。
「よかったら何か作りましょうか?」
「なに?」
空腹だと人間はイライラしますからね。お腹いっぱいになって幸せになったら僕のことも解放してくれるのではないでしょうか。
「貴様料理人か……材料はあるのか?」
「ありますよー」
そういい僕はレタスを袋から取り出しお兄さんに見せました
「面白い、作ってみろ」
久しぶりに面白いものを見たかのような邪悪な顔でお兄さんは言いました。
「正気ですかい? 毒でも盛られやしないでしょうか?」
「俺たちが見張っておけば下手な真似できないだろう。それに俺たちは何としても国に帰らないといけないだろう」
そう言ってお兄さんは僕にまな板と包丁とフライパンを投げてきました。あぶなっ! 刃物を人に渡すときは、自分は刃をもって柄の方を人に向けなさいってお母さんから習わなかったのでしょうか。
なんだか料理してもいいみたいなのでさっさとはじめてしまいますかね。