表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
998/1603

20f

 移動距離の短くなった羽虫は出し惜しみなしの最高速を叩き出し、凄まじい速度でガムラオルスに迫ってくる。

 それ自体は先ほどと大差なく、薙ぎ払えば打ち払えるという程度のものだった。だが、彼らはあの数回で《翔魂翼》の弱点に気付き始めている。

 羽虫は順次(・・)飛行体勢に入り、翼の担い手に向かっていく。

 これはまさしく、波状攻撃だった。その一隊一隊がガムラオルスに害を与える規模で編成されており、全員を待ってから迎撃するということを封じた。

 こうなると、止む終えない形で翼を振るわなければならなくなる。


 緑色の光芒が空を裂き、先頭を飛んだ羽虫が次々と叩き落とされていく。しかし、第一波に続く部隊は攻撃の軌道を予測し、次々と別方向に散っていった。

 結局のところ、打ち落とせたのは第二波の部隊までであり、残りは十全の状態で接近を続けている。

 いくら軌道の制御ができる翼とはいえ、あちこちに散らばった個体を一閃で薙げるほど柔軟な動きはできない。


「俺の力が、神器の力だけだと思うなッ!」


 ガムラオルスは咄嗟に剣を両手持ちに切り替え、翼の噴射を一定にして宙に留まった。

 仮にも里では(すい)を請け負っていた男だ。波状攻撃への対処方法を記憶から引きずり出し、実戦しようとした。


「(大を以て小を制するならば、囲うべき……奴らはそれを行ってはいない)」


 最初に選択された戦い方が、まさしく軍隊戦の王道にして、最適解であった。

 だが、彼らはガムラオルスというイレギュラーに相対(あいたい)し、咄嗟に策を切り替えたのだ。

 それ自体は柔軟な思考、そして瞬時の判断能力に支えられた適切な対応であったのだが、彼もまたそれを行うだけの資質を持っていた。


 襲いかかってきた五体の羽虫を捉えた瞬間、彼は自身のちょうど前方から来る魔物を切り裂き、そのまま光を噴射することで通り抜けた。

 これには羽虫も驚き、行動が停止する。異常事態に直面した時、一度立ち止まってから考えるのは得策だが、彼に対しては悪手だった。


 その一瞬の隙を逃さず、ガムラオルスは蹴りによって反動を生じさせ、高速移動をしながら弧を描くように旋回を行って見せた。

 そのまま横一列に並んでいた部隊の側面に付くと、そのまま剣を突きつけ、真正面に突っ込んだ。


 これほどの動作が十を数える間もなく行われ、対応の間に合わなかった四匹の羽虫は貫かれ、粒子となって消えていった。


「少数の運用は必然的に、部隊の脆弱性を増す。こっちは一対多でも、一対一でも請け負える……甘かったな」


 動きの鈍い大部隊、機動力の高い小隊、彼は一人にしてその両方の性質を体現できていた。

 戦術を理解している彼はそのどちらを使うのが適切か、という部分では間違いは起こさないだろう。


「時間稼ぎ、ごくろーさん!」


 大声でそう言ったのは、善大王だった。

 今まで何をしていたのだろうか、と思われても仕方のない彼だが、立っている場所が場所なだけにガムラオルスは黙った。


「(さーて、少しは休ませたんだ。ちょっとくらい力を貸せよ)」


 彼が大きく息を吸い込んだ途端、手の甲に刻まれていた紋章がうっすらと白い――白けた黄色の光を(たた)えた。

 攻撃対象は、藍眼の魔物だ。


「《驚天の一撃(アメイジングブロウ)》ッ!!」


 光属性の導力が両手を覆い、彼は一発、二発、四発、と次第に速度を増して拳打を打ち込んでいく。

 当然、虫型の魔物はこれを振り払おうとするが、彼はその度に素早く跳ねることで衝撃を逃していた。

 着地と同時に拳打を叩き込み、魔物の体から落ちないように速度を高めていく。

 増していく速度は彼の残像を生み出していき、跳ねる毎に変わる場所も相成ってか、まるで分身して攻撃を行っているかのような光景を映し出していた。


 とはいえ、たかが拳打である。魔物の強固な外殻――それも藍眼の超硬質のそれを打ち抜くことも、砕くこともできないことは誰が見ても明白だった。

 魔物達はこれをただの攪乱(かくらん)だと判断し、ガムラオルスへの攻撃を続行する。


 だが、気付いていなかった。打ち込まれている当の魔物が誰よりも脅威を認識し、逃れようとしていたにもかかわらず

 この攻撃、驚天の一撃(アメイジングブロウ)はそれまでのものとは違っていた。攻撃方法は彼が状況に応じてアレンジしていたのだが、今回はそもそも根底から違うのだ。


 打ち込まれていくのは衝撃などではなく、超微量の正の力だった。

 一発一発は《皇の力》に遠く及ばないものだが、彼のラッシュが加速する毎に蓄積されていく量は馬鹿にならなくなってくる。


「そろそろ――(とど)めだッ!」


 一発を打ち込んだ瞬間、魔物は《皇の力》に接触した場合と同様に、粒子さえ残さず消滅していった。


「(なるほど、この方法なら負担は掛からないみたいだな――っても、あんまり使いたいもんじゃないが)」


 彼は咄嗟に《皇の力》と導力制御を融合し、独自の技術を使って見せた。ただ、それは彼が今まで見せたものではなく、まさに土壇場の付け焼き刃で作り出した技だった。

 普通であれば、使い慣れない技などを使ったところで大した成果は出せないものだが、そこできっちりと成功を勝ち取る辺りはさすがといったところだろう。


 ――しかし、妙なこともある。《皇の力》と別の力を同時に使うなど、《皇の力》の完全掌握、もしくは正の力の完全制御ではないか。

 果たして、そんな事が可能なのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ