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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
997/1603

19f

 本隊とも言える大軍の前、前哨部隊のような少数がガムラオルスの行く手を阻んだ。

 こうなると、再び調整の難しい翼を展開し、突破する他にない――その場合、術の発動や増援到着を許すことになる。


 しかし、それもまた予想の範疇だった。

 彼は羽虫の一体を捉えると、蹴りを放った。そして、蹴りの衝撃によって彼は翼を失いながらも、空を飛行し続けた。

 そう、壁として現れたはずの歩兵達を、彼は足場として捉えた。

 彼が噴射を止めたのも、その接近を視認する以前に察知していたからこそであり、全てが読み通りだった。


 《風の一族》が誇る驚異のフィジカルが、この天地の――上下の介在しない戦闘方法を実現させた。


 ――いや、これが完全な形で成立していたのは、肉体的資質だけではないだろう。三次元的戦闘を成す為に、彼は多くを知っていたのだ。


「(どこに行けばどう跳べるか、それが分かる。これが、神器の力か)」


 彼は通常の人間が経験し得ない、飛翔の感覚を熟知しているからこそ、こうした空中戦闘の勝手が分かっていた。

 反動、推力、そして落下から目測、飛行に必要となる能力を鍛えないことには、翼を使いこなすことはできない。

 現に使いこなしている彼は、これらの全てを意識的か無意識的かはともかく、確実に理解していたのだ。


 そしてなにより、彼はティアという例を知っていた。

 翼がなくとも、人を空に至らしめる存在。その前例がるからこそ、彼は土壇場の即興戦術(アドリブ)にもかかわらず、確たる自信を持って実行できた。

 迷いは僅かにもなく、そして想定――想像は現実のものとなった。


 術が発動されるかどうか、というタイミングに彼は眼球に到達し、片腕の如くに使い慣れた骨断剣を突き立てた。

 勢いよく打ち込まれた剣は魔物の眼球を抉り、杭打たれたかのような激痛によって、魔物の術は中断される。


 羽虫が次々と到達するが、彼に焦りはない。もう、彼は接地(せっち)していたのだ。


 翼は空を三つに分断するかのように、上方に向かって放射された。

 凄まじい破壊力を持つ光の本流に接触した瞬間、羽虫は薄い外殻を削ぎ落とされ、消滅していく。

 攻撃を回避しながら接近を試みる個体もいたが、この光線は一発限りでなければ、軌道の限定されるような代物でもなかった。


 翼を振り回す光景は、二振(ふたふ)りの大太刀が敵を薙いでいく場面を想起させ、実際にそのような活躍を果たした。


「掛かってこい、この俺が相手だ」


 魔物達は――羽虫に至るまで、全個体がその挑発に反応した。それは音に反応したというより、煽る言葉として識別したようだ。

 それを証拠に魔物の動きは一層早くなり、大型の魔物の移動ともなると、軌道上に存在する羽虫を轢き殺しながら進むといった具合になるほどのものだった。


 押し寄せる魔物の大軍勢を前にしながらも、ガムラオルスには僅かな恐れもない。むしろ、その状況に奮起――いや、興奮しているかのように見えた。


「そうだ、俺が求めていたのはこういう戦いだ」


 圧倒的な《選ばれし三柱(トリニティア)》の力を振るい、彼は押し迫る羽虫を一掃し、術の発動体勢に移っていた足場の魔物に対しても光線を放った。

 一対の翼は巨体を誇る鈍色を一撃で切り裂き、そのまま彼を空へと舞い戻らせる。


 斬撃、そして尾を引く翼の残光が次々と敵を討ち滅ぼしていき、彼は空中に在りてもなお無双の力を発揮していた。


 だが、彼は決して最強ではない。

 《選ばれし三柱(トリニティア)》は確かに強力で、人並み外れた力を持つ。ただし、それは所詮一人の人間が、一千(いっせん)に匹敵する力を振るっているだけに過ぎない。


 状況を理解し始めた魔物達は隊列を組み、鈍色の瞳を持つ魔物が自ら壁となり、距離を縮めていく。

 一見有利になったようにも思えるが、やられたガムラオルス当人は苦虫を噛んだような顔をした。


「(この速度で対応してきたか)」


 強固な外殻を持つ魔物は、それ自体が移動式の防柵(ぼうさく)掩体(えんたい)の役割を果たし、羽虫という歩兵戦力の守りとなっていた。


 強が弱を守るという矛盾を感じさせるが、ガムラオルスはそうではないと判断が付いた。

 そう、これがもし知能の乏しい当初の魔物であれば、大したことではなかった。だが、今の魔物は明確な知性を持ち、動いている。

 歩兵がもたらす戦況への影響、これを理解し始めた時点で、彼らの進化は人類のそれに迫り――それどころか、追い越し始めている。


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