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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
996/1603

18

「盗賊全員が立ち上がるなんて、予想外だな」

「皆、自分の居場所を守ろうとしている。誰であれ、どこに所属しようとも、それは変わらない」スケープは言う。

「ま、その通りだな。多かれ少なかれ、人なんて同じようなもんだな」

「ライト、揺れがひどい」

「……」


 善大王はペースを僅かに落とし、乗客の気分を害さないようにした。


「善大王、そんな状態の巫女を連れてきてどうなるんだ」

「いやな、この戦力でも少し厳しいものがある、とな。フィアは復帰次第、俺達と戦ってもらう……だから、運んでおかないとな」


 善大王らしくもないやり方だった。少女を戦いに巻き込むなど、以前の彼ならば渋々行うという具合だっただろう。

 信頼を置いているフィアにしても、ここまでひどい状態に陥ったのであれば、まず間違いなく休ませたことだろう。

 それを酷使させているという時点で、普通の人間から見てもなかなかに厳しいように思えた。


「天の巫女はそれで納得しているのか?」

「お前に心配される義理はねぇよ。な、フィア」

「……う、うん」


 微妙な反応に、スケープは視線を逸らした。


「それで、お前らは準備できているか?」

「俺はお前達とは違う」

「おれは――見れば分かるだろう」


 走りながらに、善大王とスケープは《魔導式》の展開を着実に行っていた。

 ガムラオルスについては、そんな手間をかける必要はない。彼単体が、白兵戦力として魔物に相対(そうたい)できるのだ。


「じゃ――行くとするか」


 彼の眼光が鋭くなったのを確認すると、全員が足を止めた。


「《光ノ二十番・光弾(ライトショット)》」


 ただ一度の詠唱で、そこにある五つの《魔導式》が同時に起動した。彼の得意とする、下級術の連携だ。

 その全てが鈍色の魔物に向かうが、当然のように羽虫がガードに入った――それも、一発一体で十分な場面にもかかわらず、数十体が動いた。


「お前らが指揮官護衛を優先してることくらい、さっきのやり方で見切ってるんだよ! だがな、優先度を読み違えたな!」

「陽よ、氷を輝かせろ《天舞の細氷(ダイアモンドダスト)》」


 詠唱と同時に、周囲が凄まじい冷気に包まれ、微弱な水分が凝固、結晶化を開始した。

 刹那、発生した結晶は砂漠の熱気に負けることもなく、名刀の刃の如く鋭さで辺りを飛び回った。


 羽虫は言うまでもなく、大型の魔物に至るまでこの攻撃を直撃し、次々と絶命していく。

 だが、やはり藍眼の魔物は重要視されているらしく、大部分の羽虫は主の周囲を囲うように展開し、屍となったものさえ肉壁として再利用された。


 周囲一帯に熱気が戻った時、多くの魔物が粒子となって消え去り、十全の魔物が姿を現した。


「はは、こりゃ読み違えたな」

「数が多すぎる。こうなると、おれの術でさえ一撃での殲滅は不可能だ」

「なら、俺の出番だ!」


 二人の後方で噴射待機していたガムラオルスが、充填していた力を一気に放出し、類を見ない速度で空へと到達した。

 肉体に襲う負荷は計り知れないが、それが必要であると彼は咄嗟に判断していた。

 今の攻撃で羽虫の大部分が藍色の瞳を持つ魔物に向かい、鈍色などは完全ながら空き(・・・・)となっていた。

 だが、大型の魔物を守ろうとする思考を持っているとすれば、ほどなく彼らはガムラオルスの攻撃対象の元へと到達する。

 この場で重要なのは、その到達速度。相手が間に合わない速度で接近し、決着を付ければ指揮官防衛という行為はただの無駄に終わる。


 骨が悲鳴をあげるかのように軋みだし、筋肉がちぎれそうになるほどの負担が肉体を蝕むが、彼の速度は変わらない。

 鈍色の瞳に《魔導式》が描かれ始める。歩兵が間に合わないならば迎撃するといった行動だが、彼はそれを一切気に留めなかった。


 肉体が限界に達し、壊れ始めようとした時、彼は光の噴射を中断した。

 推力は失われたが、慣性が働くことによって彼の体は吹っ飛ばされる形で魔物へと迫っていく。

 だが、相手も無策ではない。羽虫の大部分(・・・)は藍眼を守ったが、残りの何割かはそこまで離れた地点には行っていなかった。


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