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一方、ウルスは最前線で組織の戦士達と鎬を削っていた。
「おい、まだやれるか!?」
「……は、はい!」
先んじて気付いたことが幸いしてか、組織の戦士達は掃除烏の一方的な遠距離火力に晒されていた。
だが、あちらも全くの無抵抗というわけではなく、空中で迎撃することや足の速い者が一番槍として迫ることもあった。
なにより厄介だったのが、善大王の《皇の力》が想像以上に魔物を削りきれなかったことだった。
「(さっきの出力、あれは明らかに常軌を逸していた。だが……何故、途中で止まったんだ? それに、善大王様の《皇の力》とは異なっていたが、そういうものなのか?)」
この場において、彼だけが本家の《皇の力》である《魔封》の存在を認知していた。
だからこそ、その発動時の現象が異なっている事実を気付き、疑問を抱いていた。無論、それで迷いが生まれるということもなく、戦いはつつがなく行われている。
「あと少しで向こうの近接型が到達するぞ。それまでに削り切れ」
「わ、分かっていますよ! ……あと、少しで」
冷静になったのか、クオークは顔を真っ青にした。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! あの数をぼくらで止めきれるんですか?」
「……できる限りはやろうって話だろ」
「そ、そうですよね。でも――」
「助太刀しよう」
クオークは予期せぬ助力の申し出に感極まったが、ウルスの方は厳しい表情をしたままである。
「あんたが来るとはな」
「……オキビ、か」
「覚えていてくれて結構。だが、今の俺はウルスだ」
「誰であろうとも関係はない。この町を守ろうとする者であれば」
動物の骨で作った装飾を身に纏った、蛮族風の男はそう言うと、手に握った竜牙刃を掲げた。
「盗賊ギルドボスとして命令する。我らが敵を討ち滅ぼせ!」
その雄叫びが上がると同時に、集っていた数百の盗賊達が各の武器を天に向け、「応!」と大声を張り上げた。
「ウ、ウルスさん……これって、ぼく達のことじゃ?」
「……いや、今は大丈夫だ。俺達と奴らにとっての敵は、組織だ」
顎をしゃくり、迫り来る軍勢の方を睨み付けた。
彼が信じたとおり、盗賊達は敵軍に向かって走り出し、接近戦の役割を負った。
「にしても、よくもまぁこんなに隠れてたものだな」
「よその町からも集めてきたのだ。魔物がダストラムに迫ってきた、と聞いた時から」
「……なるほどな」
内心で、彼は善大王のツキに驚いていた。
もし、早急に動いてアジトを攻め滅ぼしていたならば、肝心のボスを逃すことになっていた。
この無駄としか言えない待ちが――もたらされた危機的状況が、皮肉にもボス本人を引きずり出したのだ。
「(が、今はギルド壊滅とか言ってる場合じゃないな)」
切り替えるところはきっちり切り替えるらしく、術発動の準備を終えたクオークの顔を一瞥し「よし、俺達もさっさと攻め込むぞ」と発破をかけた。
「はい!」
若き冒険者が応じた瞬間、彼らの真横を通り過ぎていく三つの影が――四人組の姿が視界に入った。
「ウルス、ここは任せた! 俺達は魔物相手をしてくる」
「ったく、《皇の力》だけでカタを付けてくれると思ったんだがな!」
「悪ぃな、だが埋め合わせはきっちりするぜ」
フィアを背負った善大王は速度を落とすこともなく走り抜け、彼の後ろに続けていたガムラオルス、スケープは言葉を交わすことなく去って行った。
「(共通の敵は仮初めの理解をもたらす、か。それが一時のものとならなければ、きっと――)」
頭に過ぎった考えを振り払うと、ウルスは前衛の盗賊に追いつくかのように、歩を進めた。




