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その氷は周囲に広がる炎にではなく、陽に照らされたかのように、煌びやかな光を身に宿しながら舞いを踊った。
その光景は荘厳にして美麗、自然界では稀少な現象とされるそれが、この砂漠の地というあり得ない場所に巻き起こったのだ。
しかし、本当に同一であるわけではない。その氷は一つ一つが鋭い斬撃性能を持ち、煌めきを捉えた後には死が手招きをするのだ。
降下中の爆薬は空中で切り裂かれ、広がろうとする爆炎も凄まじい速度で飛び交う細氷にかき乱され、静かに消し去られた。
それだけではなく、空域から逃れようとした――逃れた魔物に至るまで、この天舞の虜となったのだ。
だが、不思議なことに善大王やフィア、そして町さえも傷を負うことはなかった。対象から除外されていたらしく、触れた氷さえも、ただの細氷として溶けていく。
「スタンレー……俺達を助けたつもりか?」
善大王は天を仰いだまま、言葉を紡いだ。
「この町を――居場所を守る為だ、お前を助けたわけではない。それと……」
瞬間、天光の二人は背後から感じる風圧に違和感を覚え、振り返った。
「おれはスタンレーではない、スケープだ」
彼を――彼女を連れてきたのは、ガムラオルスだった。
そこに居る女性は間違いなくスケープ本人であり、身を纏うボロ布のような神器が変身を行っていないことを示していた。
「……こりゃどういうことだ?」
「おれはもう、誰かに全てを任せたりはしない。スケープとして、自分自身で戦う」
「まさか……スタンレーって、お前の変装だったのか?」
ガムラオルスは頷くと、敵のいる方角を見やった。
「俺はこいつがなんであろうとも、付き合うと決めた。だからこそ……善大王、お前とも手を組もう」
「……はぁ、まったく予想外の展開ばかりだ。だが、スタンレー――いや、スケープだったか? お前には期待してもいいんだよな?」
「当たり前だ。貴様に案ぜられるほど落ちぶれてはいない」
「ハッ、あの男がまさか女だったとはな。まったく、驚きだ。本当に」
フィアは疲れ切っているのか、状況を理解できていないような顔をしていた。
そんな彼女を気遣うようにか、善大王は疲れ切ったお姫様の頭を撫で「少し休んで良いぞ。フィアがそうしてくれたようにな、今度は俺が時間を稼ぐ」と大きな背中を彼女に見せた。
「ライト……私……」
「とりあえず、目は見えるようにしておけ。すぐに治る類かは分からないが――この俺の活躍を見逃すような真似はよしてくれよ」
「……うん!」
そうして巫女の傍を離れると、彼は二人の盗賊に近づき、顔を見合った。
「構わないな」
「ああ」スケープは言う。
「善大王、お前はあの力をまだ使えるのか?」
「まぁ、予想の通りだ。正直、俺はあの力を使わないで戦うつもりだ」
魔物を一瞬で消し去ることのできる善大王。その彼がああまで苦戦していた以上、その力が使えなくなっている、という可能性を考えるのは当然だった。
そして、現に彼は力を使うことを恐れていた。あの時に襲いかかった感触はトニーとの戦いの際、彼を蝕んだそれを遙かに上回っていたのだ。
今回はフィアが何かを行ったからこそ、早期の復帰が望めたが、次にそれができる保証もなければ、次がそれと同程度かどうかも分からない。
この土壇場で賭けをするほど、彼は愚かではなかった。
「ならば、三人で行くぞ。オキビは前線か」
「組織の連中の相手だ――っていっても、この様子だ。どうせお前達も切られたんだろ?」
「さあな、だがどちらにしても同じことだ」




