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「(フィア、何をしたんだ? ……この焦り様、ただ事じゃないぞ)」
次第に意識がはっきりしてきたのか、彼はフィアの身に起きていた異変に気付き始めた。
彼女の肉体は――正確には魂なのだが――信じられないほどに疲弊しきり、こうして戦っていること自体が奇跡のような状態だった。
善大王にはその原因が分からなかった。医学に精通し、少女のことであればおおよそは把握できる彼であっても、《星》の身にのみ起きる現象は読み切れなかった。
壊れた車輪を動かし、無理矢理に走らせていた馬車のように、フィアは僅かに、だが着実にズレを蓄積していた。
そのズレがある地点を越えた瞬間、彼女の百発百中が外れた。焦りが加速し、そのフォローに回ろうとするも、これもまた外した。
「フィア!」
「だい……大丈夫!」
彼女の瞳に虹色の光が宿り、砂を大きく跳ね上げるほどの勢いで地面を蹴りつけ、指先を攻撃対象に向けた。
橙色の光線は鋭く、轟音を響かせながら落下してきた爆薬を捉え、爆破処理に成功した。
「ど、どう?」
「フィア、お前……ちゃんと見えているのか?」
彼がそう言うと、光の宿っていない瞳に虹色の光が映り込んだ。
そして、彼女も理解した。振り返った位置には善大王がおらず、見当違いの方を見て強がりをしてしまったことに。
「えへへ、大丈夫大丈夫。ちょっとしたら治るから――それまでは、見えなくても打ち抜くよ」
実のところ、彼女の目は何も捉えていなかった。
何も見えない暗闇の中、《天の星》の力を使うことで見えないものを認識し、撃墜したのだ。
これこそがまさしく、《星》としての本領である。肉体がどんな状態であろうとも、能力による補強でどうとでもできる。人間という次元を外れた存在だからこそできる、狂気の戦闘方法。
無論、この戦い方は長続きしない。《天の星》の能力は対象をカットすることにより、負荷を軽減することは可能だ。
彼女がこうして無茶な使用を可能としているのも、善大王と共に過ごした時間に、必要と不必要を判断できるようになったことが原因だ。
だが、それは負荷を軽減しているだけに過ぎない。使えば使うだけ、凄まじい情報の負荷がフィアの精神を消耗させていく。
「だから、ライトは――」
「っ……! 間に合わないッ!」
彼女は見えていなかったが、善大王は既に《魔導式》を展開し、迎撃態勢に移っていた。
彼女は確かに爆薬を打ち落とすことはできたが、それは一つである。降り注ぐ爆弾はそれだけではない。
十全であればまだしも、意識がようやくはっきりしてきた、という状態の善大王では一つを着弾寸背に叩き落とすのが限界だった。
次に爆炎が町を走った時、彼らを守る《皇の力》はない。今度はそのまま、二人の死に繋がる。
「苦戦しているようだな、善大王」
その声を聞いた瞬間、善大王は唖然とした。
「お、お前は!?」
「フッ……陽よ、氷を輝かせろ《天舞の細氷》」




