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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
992/1603

14

「ライト! これ以上は無理だよ!」

「……俺は諦めない」

「でも! このままじゃライトも――ライカも、ミネアも助けられずに終わっちゃうよ!」

「だが、ここに住んでいる人を救うことはできる!」

「えっ……」


 瞬間、善大王の右手に刻まれた紋章は一層輝きを増し、三倍速で拡散、放出された。

 《皇の力》の出力の上昇は時を追う毎に発生していたが、今回のそれは明らかに今までの振れ幅とは異なっていた。


 脅威の勢いで放たれた光糸は、すり抜けていこうとした羽虫を片っ端に貫いていく。

 対消滅という現象に変わりはないが、糸の拡散は鋭い触手で刺すように、キレや速度が格段に増していた。


 そうして、迫り往く無数の白光はこの爆撃の根源でもある藍眼に向かい、一本に集束していく。

 羽虫が――それどころか鈍色の個体さえもこれを防ごうとするが、まるで掘削でもするかのように、おぞましい数の魔物が削り取られていく。

 千は越えようかという羽虫はこの攻撃の前に無力でしかなく、命中と同時に二倍三倍に増えた光糸が伸びていくといった具合で、もはや一対一の交換という当初の戦略は瓦解していた。


「ライト! ライト!!」

「消せる――消しきれる」

「ライト!」


 もはや、フィアの声は彼の耳には届いていなかった。

 意識は究極にまで研ぎ澄まされ、彼の自我は(くう)となり、無となっていた。

 彼の目は魔物の軍勢を――負の力の集合体を捉え、そこに介在する思考は何もなかった。善大王(・・・)として、魔を滅することの他に考えることなど、なにもなかった。


 この想定外の状況に恐れを抱いたらしく、藍色の瞳を持つ魔物達は後退し始めるが、善大王は一切気に留めなかった。

 だが、ただ一匹。蜻蛉型は例外といわんばかりに、数百、数千の先端を迫らせ――完全に消滅させた。


「ライト! もういい! もういいの!」

「まだだ! このまま奴らを滅ぼしき――」


 視界は白く染め上げられたが、今回は脈動することもなく、常に彼の世界を覆い続けていた。


「く、くそぉ……あと、あと少しだ。あと少しだけ……」


 意識がふっ、と消えそうになった瞬間、仄かに暖かい光が彼を照らした。目には見えず、音も聞こえず、何の匂いも感じなかった。

 しかし、その熱量を――その光の存在を彼は認識していた。


 凄まじい脱力感が襲うと同時に、善大王の視界を覆っていた白色の幕は取り払われ、燃えさかる町並が戻ってきた。


「ライト! 大丈夫!?」空を見上げながらも、心配そうな声で言った。

「……あ、ふ、ふぃあ?」


 彼は見間違えたのではないか、と一瞬だが考えてしまった。

 視界からもやが消える刹那、彼女の全身が――肉体そのものが、橙色に発光していたのだ。

 ただ、思い違いと感じるほどに、その痕跡は残されていない。フィアは普段通りの姿で、発光などしていなかった。


「ライトのおかげで、かなり数は減ったみたい。これなら、私でも対応できるよ」


 言いながら、彼女は次々と羽虫や爆薬を打ち抜いていた。

 どんな場面にあっても、自分が成すべきことを着実になす。かつての彼女であれば、まず間違いなくできなかったことだろう。


「……っても、まだ残っているな。よし、残りを取っ払い――」


 手の甲を見た瞬間、彼は違和感に気付いた。

 先ほどまで煌々と輝いていた紋章は、まるで眠りに落ちたかのように黒い痣となり、沸き上がるような力の供給も止まっていた。


「ライトは無理しないで。ここは私が支えきるから」

「フィア……悪いな」


 感謝を述べられながらも、フィアは表情一つ変えなかった。普段の彼女であれば空気を読まずに照れ始めるところだが、今回は違うらしい。

 ただ、これは成長したから、という類の現象ではなかった。善大王は見逃していたが、彼女の額からは大粒の汗が流れ出していた。

 それまで、素晴らしいまでの鋭さを誇っていた術についても、精細(せいさい)を欠いている。


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