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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
991/1603

13

「《救世(セイヴァーリパルス)》」


 以前に増して出力を増した光が放たれ、凄まじい速度で枝分かれていく。

 かつてであれば、その攻撃に対抗することもなく、多くの魔物が一撃の名の下に消し去られていた。しかし、今回は違って展開になった。

 無数の羽虫は主でもある藍色、鈍色の個体に光糸と接触すると判断した際、自らが犠牲となってその攻撃を帳消しにしていった。

 無論、《皇の力》は一対一でやり取りをするものではない。一本が消えたところで、それを補強するもう一本が襲いかかる。


 だが、そうした狙い撃ちの如く侵攻を、おぞましい数の羽虫が対応していく。

 いくら以前よりも拡散の速度が増したとしても、こうして防がれてしまえば動きを止めることはできない。


 その上、鈍色の眼を持つ魔物が炎を放った。距離が離れている為、それが術なのか能力なのかは不明だったが、それは大きく関係しなかった。

 この炎が数百、数千の羽虫の代替とし、《皇の力》を相殺していったのだ。

 どんな力であれ、負の力を含んだ力ならば対消滅させることのできる《皇の力》だが、それは絶対的に優位なものではなかった。


「クソッ、連中も対策を練って来やがったか」


 そうこうして手間取っている間に、機動力の高い魔物が先陣を切るように、ダストラム上空に到達した。


「させないっ!」


 フィアは地面を蹴り、橙色の光線を放つ。素早い羽虫とはいえ、視認できない速度の攻撃を避けることはできず、直撃――そして、消滅した。

 対空迎撃において不足はなし。善大王が内心ほっとした瞬間、消滅した魔物から何かが落ちてきた。


「……フィア、打ち落とせ!」

「えっ――うん!」


 ごま粒のような微少な黒点だったが、フィアはこれをピンポイントで狙い撃ち、空中で撃破した。

 途端、その粒は中級術に相当する威力で爆発し、上空に赤黒い爆炎を撒き散らした。


「危なかったね。あれが落ちてたら――」


 気付いた時、ダストラムの直上を飛ぶ羽虫の数は倍――どころか、十倍ほどに増えていた。

 ただの壁かと思われていた羽虫だが、そのほとんどが何かを抱えていた。一匹につき、一個の黒点――視認できる情報ではそうとしか言いようがないが、それは爆薬だった。

 彼らは知るよしもないが、これはガムラオルスが山で戦った魔物の使ったものと同じく、魔物体内で生成された爆発物である。

 軍勢の中にいる藍眼の魔物には、蜻蛉(トンボ)の姿をした個体がおり、それが爆薬を供給していたのだ。


 フィアはこれを打ち落とそうとし、粒に狙いを定めて術を放っていく。その威力、精度ともに最高峰の術により、魔物は自身の武器によって消滅していった。

 爆発という性質が幸いしてか、一つの爆破が連鎖し、空で赤黒い誘爆現象が発生していた。


「ライト、こっちは大丈夫そう」

「……悪い、俺の方が駄目だったみたいだ」

「えっ……それってどういうこと?」


 彼が左手で空を指さすと、フィアは唖然とした。

 煙の中に隠れ、無数の羽虫が彼女の術を逃げ切っていた。というよりも、あそこまで大きな連鎖が発生した以上、視野が塞がれるのは当然のことだった。


 無事に生き残った羽虫は次々と爆薬を投下していき、空域を離脱していった。いくらフィアとはいえ、下級術では射程外の相手を打ち抜くことはできなかった。

 逃げていく魔物を放置し、間に合わせようと粒を打ち抜いていくが、当然撃ち漏らしが生まれてくる。


 一つ、また一つと彼女の攻撃を抜けていき、ついには地面へと到達した。

 空で起きた爆発が、そのまま地上に襲いかかったのだ。何もかもを焼き尽くす炎が、町の中を流れた。

 まるで、波や川の流れを思わせるそれは、瞬間的に家屋を発火させていく。爆心地に至っては、もはや跡形さえ残っていない。


 幸か不幸か、二人のいる場所だけは炎の本流とは無縁だった。善大王の《皇の力》が、押し迫る破壊の波を打ち消していったのだ。


 そうして第一波の炎が流れきった後、町は姿を変えていた。地面を走る爆炎はなくなっても、燃え移った火は消えずに破壊をもたらしている。


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