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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
990/1603

12f

 ――ダストラム、地下アジト内にて……。


「地上の騒ぎはなんだ?」

「魔物の襲来、みたいですね。でも、良かったじゃないですか。上には善大王もいますし」

「……ならば、今が攻め時か」

「えっ」


 ガムラオルスの言葉に驚き、スケープは目を丸くした。


「魔物の相手は善大王に任せられるだろう。だからこそ、俺達はウルスを討つ」

「……本気ですか?」

「ようやく来た好機だ。ここで《選ばれし三柱(トリニティア)》の一人を撃破すれば、俺達の勝算も見えてくる」

「でも……今は休戦して、一緒に戦うべきじゃ?」


 彼女はとても冷静な、それであって一般的な解を導き出した。

 上では盗賊も敵だと判断していたが、肝心の盗賊側では組織の存在は知られていなかった。故に、魔物はただの魔物でしかないのだ。


「休戦したところで、終われば俺達が詰みになるだけだ。ならば、ここは賭けに出るべきだ」

「……いやです」


 予期せぬ言葉に、ガムラオルスは聞き間違いを疑った。


「ワタシは上で戦います。何をするにしても、魔物を倒さなきゃ……」

「魔物など恐れるものではない。俺とお前がいれば、十分に倒せ――」

「町が壊されたらどうするんですか!」

「……それは必要経費だ」

「ワタシはもう、居場所を失いたくないんです」


 その言葉には、彼女の強い自我が含まれていた。

 それもそのはずだ。明確に覚えていないものの、彼女の故郷は竜によって滅ぼされたのだから。

 滅ぼされた後、身よりのなくなった彼女は奴隷商に捕らえられ、最終的に実験体となった。記憶になくとも、肉体はそうした経験を忘れてはいなかった。


 だが、おそらくこの場では違うだろう。彼女が意識しているのは、盗賊ギルドのある町ということ。

 故郷を失い、火の国を失い、盗賊ギルドという居場所まで失ってしまえば、彼女は文字通り最初に戻ってしまう。


 組織というものはアジトが壊されたくらいではなくならないが、彼女はそういう風に考えることができなかった。

 ガムラオルスと出会ったこの場所を、失いたくなかったのだ。


「仕方ない。お前がそう言うのであれば、俺もそれに付き合おう。盗賊ギルドだろうと、どこだろうと――死線であろうとも」


 階段を駆け上がり、二人は地上に出た。

 そこで行われていた戦いは、想像を絶した激しさであり、それまであった何もかもが壊されるような悲劇的なものだった。


 町は業火に包まれ、幾つかの家からは助けを呼ぶ声などが響いていた。無論、それに応える者は誰も居ない。

 盗賊も町中を走り回っていた。中には情報を探り回っていた者もいれば、状況に絶望していまにも逃げだそうとしている者までいた。


「おい、今はどうなっている!」


 走り回っている盗賊の肩を掴み、情報を聞き出そうとした。


「ま、魔物だ」

「それは分かっている」

「俺達を殺そうとしている……いや、町を……何もかもを焼き尽くそうとしている」


 恐怖に引きつった男の顔を見て、ガムラオルスは手を放した。


「ガムラオルスさん……」

「まだだ」

「えっ」

「まだ終わっていない。まだ、アジトは残っている――全てが手遅れになっていないなら、どうにかできる」


 やせ我慢で空元気なのは、スケープにでも分かった。

 しかし、そんな彼の鼓舞を無駄にすることもなく、彼女は強く頷いた。


「はい!」


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