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――ダストラム、地下アジト内にて……。
「地上の騒ぎはなんだ?」
「魔物の襲来、みたいですね。でも、良かったじゃないですか。上には善大王もいますし」
「……ならば、今が攻め時か」
「えっ」
ガムラオルスの言葉に驚き、スケープは目を丸くした。
「魔物の相手は善大王に任せられるだろう。だからこそ、俺達はウルスを討つ」
「……本気ですか?」
「ようやく来た好機だ。ここで《選ばれし三柱》の一人を撃破すれば、俺達の勝算も見えてくる」
「でも……今は休戦して、一緒に戦うべきじゃ?」
彼女はとても冷静な、それであって一般的な解を導き出した。
上では盗賊も敵だと判断していたが、肝心の盗賊側では組織の存在は知られていなかった。故に、魔物はただの魔物でしかないのだ。
「休戦したところで、終われば俺達が詰みになるだけだ。ならば、ここは賭けに出るべきだ」
「……いやです」
予期せぬ言葉に、ガムラオルスは聞き間違いを疑った。
「ワタシは上で戦います。何をするにしても、魔物を倒さなきゃ……」
「魔物など恐れるものではない。俺とお前がいれば、十分に倒せ――」
「町が壊されたらどうするんですか!」
「……それは必要経費だ」
「ワタシはもう、居場所を失いたくないんです」
その言葉には、彼女の強い自我が含まれていた。
それもそのはずだ。明確に覚えていないものの、彼女の故郷は竜によって滅ぼされたのだから。
滅ぼされた後、身よりのなくなった彼女は奴隷商に捕らえられ、最終的に実験体となった。記憶になくとも、肉体はそうした経験を忘れてはいなかった。
だが、おそらくこの場では違うだろう。彼女が意識しているのは、盗賊ギルドのある町ということ。
故郷を失い、火の国を失い、盗賊ギルドという居場所まで失ってしまえば、彼女は文字通り最初に戻ってしまう。
組織というものはアジトが壊されたくらいではなくならないが、彼女はそういう風に考えることができなかった。
ガムラオルスと出会ったこの場所を、失いたくなかったのだ。
「仕方ない。お前がそう言うのであれば、俺もそれに付き合おう。盗賊ギルドだろうと、どこだろうと――死線であろうとも」
階段を駆け上がり、二人は地上に出た。
そこで行われていた戦いは、想像を絶した激しさであり、それまであった何もかもが壊されるような悲劇的なものだった。
町は業火に包まれ、幾つかの家からは助けを呼ぶ声などが響いていた。無論、それに応える者は誰も居ない。
盗賊も町中を走り回っていた。中には情報を探り回っていた者もいれば、状況に絶望していまにも逃げだそうとしている者までいた。
「おい、今はどうなっている!」
走り回っている盗賊の肩を掴み、情報を聞き出そうとした。
「ま、魔物だ」
「それは分かっている」
「俺達を殺そうとしている……いや、町を……何もかもを焼き尽くそうとしている」
恐怖に引きつった男の顔を見て、ガムラオルスは手を放した。
「ガムラオルスさん……」
「まだだ」
「えっ」
「まだ終わっていない。まだ、アジトは残っている――全てが手遅れになっていないなら、どうにかできる」
やせ我慢で空元気なのは、スケープにでも分かった。
しかし、そんな彼の鼓舞を無駄にすることもなく、彼女は強く頷いた。
「はい!」




