表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
989/1603

11

 ――火の国、ダストラムにて……。


 夜明け前に、善大王は目を覚ました。


「フィア」

「うん……来ているね」


 今ばかりはいつものぐうたらなフィアではなく、巫女としての顔付きとなっていた。


「組織の連中が出てくるという展開は、まぁ少なからずは予想していたが」

「ライト、もしかしてそれを待っていたの?」

「まさか、俺はガムラオルスの回収を最優先にしていただけだ。ついでにいうと、これはかなりマズイ路線だ」


 現在、ダストラムには実力者が六人ほど滞在している。とはいえ、その中の二人は敵の陣営であり、味方に引き込める可能性は低い。

 ともなると、これは盗賊側に有利な運びとなってしまった。組織と通じている事実がある以上、挟撃の形になるのは確定的だろう。


 二人は話し合う間に服を整え、宿の外に出た。

 瞬間、あまりに予想外な光景に、言葉を失った。


「……」

「おい! 善大王、どうなっている」

「俺も分からない。だが、魔物を引き連れているというのはどういうことだ」


 魔力の反応は確かに感じていた。しかし、このような状況は想定しきれなかった。

 藍色の瞳を持つ魔物が三体、鈍色は十体、羽虫に至っては数え切れないほどだ。


「組織は盗賊ギルドと通じているはず……だが、これを見る限りじゃ」

「滅ぼそうとしている、としか見えないな。まさか、俺達を消し去るついでってことでもなかさそうだしな」


 善大王の楽観した調子に憤りそうになるが、ウルスは堪えた。


「遅延も悪くないだろ?」

「……ってことは、組織は切れているってことか?」

「さあな。少なくとも、俺達目当てにしては明らかに規模が大きすぎるってことだ。ここを滅ぼした後は、順々に盗賊ギルドのアジトを潰してくれそうな調子だ」


 言いながらも、善大王は内心で驚いていた。

 盗賊ギルドには存在価値がある。それは悪を一点に集め、管理し、そして適度な暴力をもたらす機関として。

 だが、この様子ではその機関一つを潰すことも厭わない、という意志がひしひしと伝わってきた。


「(盗賊ギルドが潰される、これが時流ってのはなんとなく分かったが、組織側がそれに付き合うとはな――これじゃ、俺達が手を出すまでもなかったって感じだな)」


 何故、そのようなことが行われているのかは分からなかった。しかし、この場ですべきことは何一つとして変わっていない――当初の予定とは変わったが。


「俺は魔物の撃破に向かう」

「……おい、あの数だぞ」

「ハハ、俺を誰だと思っている。天下の善大王様だぞ? こんなのものの数じゃない」


 彼の余裕は、そこにあった。

 現に、第一陣としてケースト大陸に到達した魔物の軍勢を滅ぼしたのは、彼の《皇の力》である。

 ここに集まっている魔物の層は厚いが、それでもあの時ほどではなかったのだ。


「たーだーし。俺の能力が効かない奴らもいる。その上、あの数を消し去ろうとすれば、俺は全く動けなくなる」

「……おいおい、掃除烏(おれたち)にあいつらの相手をしろ、っていうのか?」


 目視には至っていないが、魔物の軍勢を引き連れている組織の人間、数にして千から五百という魔力が揺らめいていた。


「ついでにいえば、盗賊の相手もだ。連中は事情も知らず、俺達に襲いかかってくるかもしれない。そいつらも頼む」

「……逃げるという手はあるか?」

「ここで防ぎ切らないと、まず間違いなく無関係な住民が殺されるな」


 ウルスは舌打ちをすると、息を荒げて追いついてきたクオークに視線を向けた。


「おい、さっさと行くぞ。俺達の役割は、大軍の相手らしい」

「ちょ……ちょっと、待ってください。まだ、息が整って――」


 いまいち状況を理解しきっていない冒険者の手を掴むと、ウルスは走り出した。待っている時間がない、ということを彼は理解していたのだろう。

 そうして二人きりになった時、善大王はフィアの方を見た。


「また俺が倒れたら――その時は頼む」

「……そうなって欲しくないけど、任せて」


 彼は笑みを浮かべ、目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ