10χ
――火の国、カーディナル城にて……。
「――なるほど、それが奴の正体か」黒は呟いた。
「しかし、珍しいですね。あなたが彼について聞くなんて」
「なに、ちょっと気になったことがあっただけだ。それで、奴の展望はどうだったんだ?」
「冒険者ギルドとの停戦、そして火の国との迎合……盗賊ギルドを確たるものに変える――それが彼の目指す場所でした」
若き次期領主は思い出すようにそう言い、天井を見つめた。
「《盟友》への参加……度々確認されたサイガーとの接触、そして――実験体の娘を護衛した、か」
「……彼は、本当に動いていたんですね」
「ああ、確認できた限りは。だが……だとすると、奴は組織の狙いを知っていたことになる。それも、オレ達が動き出す以前から」
そう、これは奇妙な合致だったのだ。
サイガーやアリト、さらにはハーディンに至るまで、組織が明確な手助けを行いだしたのは戦争開始前後からである。
それ以前から多少の支援はしていたとはいえ、それは認知できるレベルではなかった。
もし、その微細な変化を見切っていたとすれば、それこそ人間離れした技か――もしくは内通者を持っていたということになる。
それ以外だとすれば。たとえば、こうなる未来を事前に知っていたとすれば、当人の人外的な観察力や内通者は不要となる。
「なるほど、あのクソガキもたまには役に立つわけか」
「……どういうことでしょうか」
「お前が知ることじゃねえよ。ただ、あの盗人が組織の邪魔になることが分かった」
アリトは表情を変えず「そうですか」とあっさりした反応を示した。
「奴が今どこにいるか、分かんねぇのか?」
「分かりかねます……が、呼び出すことはできます」
「ほう」
「ダストラムへと侵攻すれば、彼は現れざるを得なくなります」
「……あの場所に、何かあるっていうのか?」
「盗賊ギルドの中心的なアジトが、あの町の地下にあります。無論、私からも彼に繋ぎましょう」
従順な働きをよく思ったのか、黒は口許を緩めた。
「あの盗人、上手く動いたつもりだったみてェだが、結局はこっちの手の内ってことだ。口を突っ込む先を見誤ったなァ」
満足げな調子でそう言うと、黒は席を立ち、背を向けた。
「大陸内に潜伏させた組織の人間、そして魔物の力をもって奴を潰す。奴にはそう伝えておけ」
「ハッ」
アリトが了承したのを確認すると、彼は部屋の外に出た。
彼が外に出てしばらく経つのを確認した後、《盟友》の隊長は通信術式を開いた。
「スタンレー、組織の連中がダストラムに襲撃を仕掛けた」
『……そうか。お前か』
「すまない」
『組織とはまだ通じているのか?』
「もちろんだ」
『ならば構わない。この通信も、そういう意味なんだろう?』
伝わらないと分かりながらも、彼は何度も頷いた。
『おれはまだ、夢を諦めてはいない。だからこそ、お前がそうするのを咎めたりはしない』
「気をつけてくれ」
『分かっている』
通信を切った後、アリトは机に突っ伏した。
「(そうだ。ここで立ち止まってはいられない。なにがあろうとも、前に進み続けなければ、どこにも行けない……)」




