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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
988/1603

10χ

 ――火の国、カーディナル城にて……。


「――なるほど、それが奴の正体か」黒は呟いた。

「しかし、珍しいですね。あなたが彼について聞くなんて」

「なに、ちょっと気になったことがあっただけだ。それで、奴の展望はどうだったんだ?」

「冒険者ギルドとの停戦、そして火の国との迎合……盗賊ギルドを確たるものに変える――それが彼の目指す場所でした」


 若き次期領主は思い出すようにそう言い、天井を見つめた。


「《盟友(ブラッド)》への参加……度々(たびたび)確認されたサイガーとの接触、そして――実験体の娘を護衛した、か」

「……彼は、本当に動いていたんですね」

「ああ、確認できた限りは。だが……だとすると、奴は組織の狙いを知っていたことになる。それも、オレ達が動き出す以前から」


 そう、これは奇妙な合致だったのだ。

 サイガーやアリト、さらにはハーディンに至るまで、組織が明確な手助けを行いだしたのは戦争開始前後からである。

 それ以前から多少の支援はしていたとはいえ、それは認知できるレベルではなかった。

 もし、その微細な変化を見切っていたとすれば、それこそ人間離れした技か――もしくは内通者を持っていたということになる。


 それ以外だとすれば。たとえば、こうなる未来(・・)を事前に知っていたとすれば、当人の人外的な観察力や内通者は不要となる。


「なるほど、あのクソガキもたまには役に立つわけか」

「……どういうことでしょうか」

「お前が知ることじゃねえよ。ただ、あの盗人が組織の邪魔になることが分かった」


 アリトは表情を変えず「そうですか」とあっさりした反応を示した。


「奴が今どこにいるか、分かんねぇのか?」

「分かりかねます……が、呼び出すことはできます」

「ほう」

「ダストラムへと侵攻すれば、彼は現れざるを得なくなります」

「……あの場所に、何かあるっていうのか?」

「盗賊ギルドの中心的なアジトが、あの町の地下にあります。無論、私からも彼に繋ぎましょう」


 従順な働きをよく思ったのか、黒は口許を緩めた。


「あの盗人、上手く動いたつもりだったみてェだが、結局はこっちの手の内ってことだ。口を突っ込む先を見誤ったなァ」


 満足げな調子でそう言うと、黒は席を立ち、背を向けた。


「大陸内に潜伏させた組織の人間、そして魔物の力をもって奴を潰す。奴にはそう伝えておけ」

「ハッ」


 アリトが了承したのを確認すると、彼は部屋の外に出た。


 彼が外に出てしばらく経つのを確認した後、《盟友(ブラッド)》の隊長は通信術式を開いた。


「スタンレー、組織の連中がダストラムに襲撃を仕掛けた」

『……そうか。お前か』

「すまない」

『組織とはまだ通じているのか?』

「もちろんだ」

『ならば構わない。この通信も、そういう意味なんだろう?』


 伝わらないと分かりながらも、彼は何度も頷いた。


『おれはまだ、夢を諦めてはいない。だからこそ、お前がそうするのを咎めたりはしない』

「気をつけてくれ」

『分かっている』


 通信を切った後、アリトは机に突っ伏した。


「(そうだ。ここで立ち止まってはいられない。なにがあろうとも、前に進み続けなければ、どこにも行けない……)」


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