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――光の国、ライトロード城下町にて……。
これまでの外出控えから一転し、多くの人々が列を成して行進を行っていた。
彼らの目的はタグラムおろしである。重税に関しては段階的に解消されてはいたものの、それを意識している者はいなかった。
この場にいる者達の全てが、教会の言葉だけを聞き、それに従って動いているだけにすぎないのだ。
その盲信こそが光の国の倫理感を高めている一方、現実的な判断能力を奪い去っている。
「巫女様、城に戻りましょう」インティは言った。
「……うん」
物陰に隠れながら反対運動の様子を窺っていた二人は、この状況が容易に打開できるものではないと判断し、撤退することとなった。
城に戻ってすぐ、アルマは執務室へと向かった。
本来は善大王――もしくはシナヴァリアがいるはずの部屋で頭を抱えていたのは、タグラムだった。
「どうでしたか」
「……もう、止められないと想うよ。みんなに声が届くって感じがしないの」
「ともなれば、私が退陣する他にありませんね……望んだ地位ではなくとも、この状況で責任を投げるのは――いえ、未練がましいものですな」
そもそもは彼がシナヴァリアを陥れたことが原因だったのだが、タグラムはタグラムで自分の正義感に従って行動していたことは間違いなかった。
よく思わないながらに、それを分かり始めたアルマはただ俯くことしかできず、「あたしがみんなを説得できてたら……ごめんね」と謝罪の言葉を述べた。
「巫女様が謝ることではありませんよ」
その言葉を聞いた瞬間、アルマの心に僅かな迷いが生まれた。
このタグラムおろしが教会主導のもとに行われている、というのは事前の調べによって分かっていた。
その上、教会側が首都に魔物を引き入れた可能性が高い、ということも独自に行った調査で明らかになっている。
守られるばかりだった彼女も、今ではそうしたことを行うようになっていたのだ。
それは紛れもない成長だが、歪みによって生じた成長であることは否定できなかった。
もしも彼女が子供のままであれば、きっと信者の説得に当たっていただろう。
教会の都合などお構いなしに、国家側の味方をすることもあっただろう。
そして、今この場においてもタグラムを救うという道を選んだことだろう。
今のアルマは、タグラムおろしを利用しようとしていた。
統治者を欠くことになれば、必然的にその埋め合わせが必要となる。そうなれば、シナヴァリアやダーインを首都に戻すことも可能になってくるのだ。
無論、売国奴と誹られてもおかしくないシナヴァリアがあっさり現職に復帰できるはずはないのだが、アルマはそこまで気が回っていなかった。
タグラムの努力を認めても、よく知った二人を取り戻したい、そうした人間らしい面を彼女は滲ませていたのだ。
国民のみならず、巫女であるアルマもまた、この状況によって負の面に呑まれ始めていた。




