8
――現代、ダストラムにて……。
「――ということだ。奴は盗賊ギルドを変えるべく動き、ほぼ全てを有限実行した。冒険者ギルドは戦いをやめ、カーディナルは盗賊さえも受け入れ始めた」
「……なるほど、道理でな」
彼の脳裏には、アリトの姿が浮かび上がっていた。
あのお人好しがあそこまでの力を握ったことも、そして今にも火の国を掌握するほどの人心を得ていたのも、全てはスタンレーの差し金と考えると辻褄があっていた。
なによりは、この方法ではアリトは悪人でなくても良いのだ。スタンレーが闇の部分を背負い、彼を押し上げていくだけでいい。そうするだけで、盗賊ギルドは――両者が得をする。
この例に関しては、善大王のほうがよく知っていた。暗部、宰相が歴代善大王を支え、濁を呑んできたのだ。
そうした裏方の助けにより、善大王は常に清であり続けられた。この機構が理想的であることは、光の国が証明している。
「そして、スタンレーは組織に通じている。あの当時からそうだったのか、それとも途中から加わったのかは分からない。だが、少なくとも今は連中の手駒だ」
「組織についても知っていたか」
「だからこそ、ここにきた。盗賊ギルドを通じて、連中を調べ上げる為にな――そして、スタンレーとの決着を付ける為」
善大王はおおよそを理解した。
この場に集った者達の多くが、特異点のような存在によって引き寄せられたこと。
そして、その特異点があまりにも出過ぎたことをしたということ。
「(だが、妙だな。あのスタンレーが、本当に組織の手駒となって動いているのか? だとすれば、アルバハラで組織の者と戦ったのは何故だ)」
今聞いた話の中、その部分だけは明らかに整合性の合わないところだった。
司書の狙いが火の国の掌握、及び盗賊ギルドの存続にあるとすれば、あの手は活きてこない。
「それで、いつ攻める」
「仕方のないことだ。明日でにも攻めるとしよう」
彼は悟っていた。これ以上、先延ばしにすることはできないと。
ミネアの笑顔を損なわせることになろうとも、そうするしか道はないと。
ウルスの意志もそうだが、彼としても時間をかけている暇がなくなっていた。
組織やスタンレー、世界を変革しようとしている人間が存在する以上、一刻一刻が状況を変化させていく。
今でこそ何も起きていない光の国であっても、その毒牙に見舞われることになるかもしれない……と、彼は考えていたのだ。
今この瞬間、彼の中に自国への危機感が生まれた。それが、ミネアの笑顔という部分を上書きし始めたのだ。
ただ、この判断は間違っていない一方、あまりにも遅い判断だった。光の国では既に、民が毒に冒され始めていたのだから。




