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オキビの脅しが効き。あの場に集まっていた盗賊達の多くがベイジュ派となった。
今回の会に呼ばれた者達はほとんどが縄張りを持つ者であり、先代ボスに仕えていた者も数人混じっていた。つまるところ、盗賊ギルドの中枢メンバーというべきだろう。
もちろん、ボスを競い合うような派閥の長は、この場に訪れていない。仕留めきれなかった者がいるというのも事実だが、ベイジュはそうした者達は始末していけばいい――と考えていた。
「ボス、次は誰を殺せばいい」
「……当面は予定ナシだ。他の連中がアホな真似をするようなら、見せしめとして殺す――それまでは取り置きだ」
人の居なくなったアジトを進み、二人は外に出ようとした。集まりが終わった以上、この場に居座る必要はないと考えたのだ。
そんな時、声が聞こえた。
「遅れました」
「遅れました……だとォ? オイ、お前の名前はなんだよ。どこの縄張りの奴だ?」
「……カーディナル付近で活動させてもらっています――ストラウブです」
ベイジュはしばらく考え込むような動作を見せたが、すぐに「んな奴知らねぇな。雑魚がわざわざご苦労なことだが、集まりはもう終わってんだよ」と一蹴した
「どのような集まりだったのでしょうか」
「あン? オレが新しいボスになるってことで、馬鹿共にその宣言をしてやっただけのことだ。ま、全員がオレに付くってことになったんだがな――だが、てめぇは例外だ。従うっつっても、ここで殺しておく」
彼は凶暴な性格、というわけでもなかった。ただ純粋に、甘さを捨て、恐怖による支配を是としているだけの男だった。
そんな男だが、殺しは自分の腹心であるオキビに任せていた。雑魚と認識した相手でさえ、彼に始末を任せようとしたのだ。
だが、オキビはボスと慕った相手の合図にも気付かず、ストラウブの――彼の連れている子供を注視した。それはまさしく、爬虫類が得物を捉えているかのような、人間らしさのない行動だった。
「ガキか」
「はい」
「ハツ、ならお前を殺すのは簡便してやる。その代わり、そこのガキは焼き尽くすがな――おい、オキビ。殺れ」
ストラウブは身構えるが、肝心の子供の方は怯える様子もなく、《焦土師》の目を見据えていた。
金色――藍色の毛が混じっているが――の髪、空色の瞳、火の国に住まうにふさわしくない白い肌。
「(まるで、巫女様みたいだ……そういえば、巫女様はどこに消えたんだ?)」
非人間さを強く感じさせるオキビだったが、この時に巡らせた思考はとても人間らしく――むしろ、子供っぽい純粋なものだった。
「……おい、オイ! オキビ何やってるんだ。さっさと燃やせ」
「坊主、年はいくつだ」
「おい!」
ボスの命令に逆らうように、オキビは静かに問う。
「十四才」少年は答える。
「十四年前……なるほど」
「オキビ、オレの命令に逆らうつもりか?」
「ボス、少しの間黙っていてくれ」
睨み付けるような視線を向けられ、ベイジュはばつが悪くなったように目線をよそにやった。
「お前の母親は、どんな女だった」
「……」
「言え、言わねば殺すぞ――そこのストラウブという男ごと」
この脅しは効いたのか、少年は口を開いた。
「覚えていない」
「本当か?」
「……少なくとも、今は母親がいない」
この少年が何かを隠している、そう判断したオキビは「お前の名は?」と問うた。
「スタンレー」
「スタンレー、か。今日は見逃してやろう。だが、オキビの名を忘れるな。お前が母親を思い出さない限り、いつ俺に殺されるか分からないと知れ」
それだけ言うと、彼はさっさとアジトの外へと進んでいった。
早歩き気味な彼に続くように、不機嫌そうなベイジュは唾を地面に吐き付け、歩き出した。




