表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
984/1603

6s

 オキビの脅しが効き。あの場に集まっていた盗賊達の多くがベイジュ派となった。

 今回の会に呼ばれた者達はほとんどが縄張りを持つ者であり、先代ボスに仕えていた者も数人混じっていた。つまるところ、盗賊ギルドの中枢メンバーというべきだろう。

 もちろん、ボスを競い合うような派閥の長は、この場に訪れていない。仕留めきれなかった者がいるというのも事実だが、ベイジュはそうした者達は始末していけばいい――と考えていた。


「ボス、次は誰を殺せばいい」

「……当面は予定ナシだ。他の連中がアホな真似をするようなら、見せしめとして殺す――それまでは取り置きだ」


 人の居なくなったアジトを進み、二人は外に出ようとした。集まりが終わった以上、この場に居座る必要はないと考えたのだ。

 そんな時、声が聞こえた。


「遅れました」

「遅れました……だとォ? オイ、お前の名前はなんだよ。どこの縄張りの奴だ?」

「……カーディナル付近で活動させてもらっています――ストラウブです」


 ベイジュはしばらく考え込むような動作を見せたが、すぐに「んな奴知らねぇな。雑魚がわざわざご苦労なことだが、集まりはもう終わってんだよ」と一蹴した


「どのような集まりだったのでしょうか」

「あン? オレが新しいボスになるってことで、馬鹿共にその宣言をしてやっただけのことだ。ま、全員がオレに付くってことになったんだがな――だが、てめぇは例外だ。従うっつっても、ここで殺しておく」


 彼は凶暴な性格、というわけでもなかった。ただ純粋に、甘さを捨て、恐怖による支配を是としているだけの男だった。

 そんな男だが、殺しは自分の腹心であるオキビに任せていた。雑魚と認識した相手でさえ、彼に始末を任せようとしたのだ。


 だが、オキビはボスと慕った相手の合図にも気付かず、ストラウブの――彼の連れている子供を注視した。それはまさしく、爬虫類が得物を捉えているかのような、人間らしさのない行動だった。


「ガキか」

「はい」

「ハツ、ならお前を殺すのは簡便してやる。その代わり、そこのガキは焼き尽くすがな――おい、オキビ。()れ」


 ストラウブは身構えるが、肝心の子供の方は怯える様子もなく、《焦土師(ファイアースターター)》の目を見据えていた。


 金色――藍色の毛が混じっているが――の髪、空色の瞳、火の国に住まうにふさわしくない白い肌。


「(まるで、巫女様みたいだ……そういえば、巫女様はどこに消えたんだ?)」


 非人間さを強く感じさせるオキビだったが、この時に巡らせた思考はとても人間らしく――むしろ、子供っぽい純粋なものだった。


「……おい、オイ! オキビ何やってるんだ。さっさと燃やせ」

「坊主、年はいくつだ」

「おい!」


 ボスの命令に逆らうように、オキビは静かに問う。


「十四才」少年は答える。

「十四年前……なるほど」

「オキビ、オレの命令に逆らうつもりか?」

「ボス、少しの間黙っていてくれ」


 睨み付けるような視線を向けられ、ベイジュはばつが悪くなったように目線をよそにやった。


「お前の母親は、どんな女だった」

「……」

「言え、言わねば殺すぞ――そこのストラウブという男ごと」


 この脅しは効いたのか、少年は口を開いた。


「覚えていない」

「本当か?」

「……少なくとも、今は母親がいない」


 この少年が何かを隠している、そう判断したオキビは「お前の名は?」と問うた。


「スタンレー」

「スタンレー、か。今日は見逃してやろう。だが、オキビの名を忘れるな。お前が母親を思い出さない限り、いつ俺に殺されるか分からないと知れ」


 それだけ言うと、彼はさっさとアジトの外へと進んでいった。

 早歩き気味な彼に続くように、不機嫌そうなベイジュは唾を地面に吐き付け、歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ