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アカリほどではないものの、切断者は明確な驚きを称えた。
「なるほど、道理で悪人としか思えないエルズを救ったわけだ。ティアの救出が天の巫女の思惑だとすれば、あの問題児を処理しないのが疑問だった」
「謎は解けたか?」
「一応は……だが、何故隠している。確かに、両国の権力者が通じていることを知られることは避けるべきだ。そして、あの悪名を持ったエルズを関係者と思わせないことも分かる――だが、それを度外視してもあいつは手中に加えるべき駒だろ?」
脇道に逸れてしまったとは思いながらも、善大王はゆっくりと瞬きをし、話し始めた。
「エルズは飽くまでも、義理の娘でしかない。その上、戸籍上は全く関係のない人間ということになっている。俺達が関わる余地はない」
「冷たい親じゃねえか」冗談のように言う。
「はっきり言えば、エルズが自立を望んだからこそ手を出してはいない。首が回らなくなれば助けるが、それまでは余計な手助けはしない。それが俺達の決定だ」
闇の国と切れた時点で、エルズは光の国に向かい、善大王の庇護下に入ることはできた。当然、善大王も望まれればそれを受けたことだろう。
ただ、彼女がそうしないと決めたからには、その選択を尊重するべきだと彼は判断した。だからこそ、件の事件の際はエルズとティアを救いながらも、その引き取りを提案しなかった。
「ハッ、善大王と天の巫女が居てそんな具合か」
「エルズを義理の娘にしたのも、冒険者としてのエルズを助けたことも、合理的ではないことは分かっている。だが、そういう物好きな真似をしてもうまくいくって方が格好いいだろ?」
彼の三枚目な面が出たからか、ウルスは話題を断ち切った。話題から逸れていることは、もちろん彼も分かっていたが、それでも知っておきたかったのだろう。
なにより、スタンレーのことを話すに当たって、切断者は大きな弱点を同時に晒すことになる。今更なことではあるものの、一方的に弱みを握られることは避けたかったのだろう――多くの敵を作ってきた者の癖として。
「スタンレーの件についてだったな。あいつの生まれは知らないが、少なくともあいつが子供だった頃は知っている」
「……そうだ、そういう話だ。できれば早めに話して欲しかったが」
「いつまでも攻め込まず、遅延を決め込んでいる王様に言われたくはねぇよ」
互いに落ち度があるからか、この場では相殺ということで手打ちとなる。良くも悪くも、二人とも長い人生の中で妥協の重要性を理解していたのだ。
「かれこれ十年くらい前のことだ。俺がまだ盗賊ギルドに属していた頃、あいつは現れた」
「……その当時から注目していたのか」
「あいつは巫女様――先々代の天の巫女の面影を持っていた。その上、巫女のような気配も放っていた」
「――確かに、言われてみればフィアに似てなくもないな。あの空色の瞳も、歴代の天の巫女に見られる特徴という話だしな」
「そうだ。だが、俺は巫女様のことをよく知っていた。だから分かる――あいつは十中八九、先々代の子供だろう」
善大王は驚いたが、すぐに納得した。
「そういえば、フィアもそれらしいことを言ってたな。その気になれば巫女は子供を産むことができるって」
「そっちかよ」
「いやいや、それは重要だろ。俺があいつに一体どれだけ注ぎ込んだと思っ――いや、この話はよそう」
性格や顔つきは違うものの、かつて慕った巫女と同じく天の巫女が大の大人に良いように弄ばれている、という事実は気を悪くしかねないものだった。




