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――ダストラム、郊外の砂漠にて……。
両コンビの年長者は秘密裏に集まり、話し合いをしていた。
「いつまで待つつもりだ?」ウルスは言う。
「ガムラオルスの能力はほとんど割れている。あいつの強みは圧倒的機動力……ついでに言えば、本人の戦闘能力も高いといったところか」
「……心配なのか?」
「いや、念の為だ。当時、俺はフィアと共にスタンレーと戦った。一応は奴を退けることはできたが、あの戦いは決して有利なものではなかった」
婚礼の儀として命じられた最終試練、その戦いのことを彼は指していた。
「ならば、今回はそこに二人追加だ。こっちの相棒は頼り甲斐はないが、実力については俺が保証する」
「それについては心配していない。だが、スタンレーがどういう奴なのか、どういう能力を有しているのかを知らないことには予定が定まらない」
「というと何だ? 相手の手札が知れるまで呑気に待つつもりか?」
「いやな、ウルスが知ってれば教えてほしいってことだよ。俺の側から見ると、あいつはまるで正体の掴めない男だ」
彼の着眼点は良かった。実際、この四人の中でスタンレーと面識があるのは、ウルスただ一人である。
無論、フィアが能力を使えば彼の過去を洗いざらい吐かせることができる為、その唯一が崩れるのはそう遠くはないだろう。
だが、それを知ることになるのは、順当に行けば彼との直接対決の際。早めようとするならば、彼が町に姿を現したタイミングといったところだろうか。
どちらにしても、情報が勝負を制すると判断している善大王からすれば、無策のまま戦うのは不本意でしかなかった。
「……奴の戦闘で目立ったところはといえば――《魔導式》を展開せず、《秘術》を使えるということか」
「それは本当か? どこかに隠れていたという可能性はないのか?」
彼が無数の《秘術》を使えることや、導力制御に長けていることなどは当然のように省かれていた。両者が知っていることである為、当然といえば当然なのだが、これをほぼ初対面の人間がやるというのはなかなかに不思議な光景だった。
「あるかもしれない。だが、奴の魔力が高まったのは術の発動時……《魔導式》を展開していたとすれば、その予兆がないのが奇妙だ」
彼が言っていたのは、オーダ城で組織の刺客のスタンレーと戦った時のことだろう。
実際、あの時は《魔導式》を一度も見せないまま、彼が逃げ去ってしまった。正々堂々戦っていれば勝っていたかもしれないが、逃げの手札を用意していた以上、これはたらればできしかない。
「おかしいな、俺が知っている奴は《魔導式》を使っていた……ここ最近で《魔導式》を隠蔽する術でも作ったのか?」
スタンレーは《魔導式》も含め、自身の存在感を消し去る《秘術》を有していた。しかし、それは彼が戦闘を開始すると同時に解除される為、必然的に除外される。
「手札が増えたという可能性はある……だが、それを込みでも奴を退けることはできた。今回は盗賊ギルドの壊滅が目当てだ、逃がしたとしても俺達の勝ちだ」
「……クオークはそこまでの腕前だったのか。決して筋は悪くないと思ったが、奴と相対できるほどとはな」
「いや、あの時は俺達……掃除烏に別のメンバーがいた。《幻惑の魔女》、といえば分かるな」
「……ん? まて、エルズが加入していたのか?」
「エルズ? お前はその名を知っていたのか?」
「――あーっとだな、ティアを……渡り鳥を助けた時が会っただろ。だから知っていたんだ」
エルズではないが、彼もまたうっかり口を滑らせていた。
ティアが山に戻った際、彼女もまた山にまで同行していったのだろう、と考えていたのだ。
「そりゃ知っている。だが、天下の善大王様が一冒険者を名前で呼ぶなんて珍しいことだろ?」
「ウルスも名前で呼んでいるだろ」
「それは手を結んでからだ。エルズとの関係を考えれば、いきなり名前を呼ぶのは妙だ。……あの娘と何かしらの関係があるのか?」
フィアと違い、ウルスは目敏かった。
ただ、彼は卓越した観察能力だけでこれを見切ったわけではない。エルズという冒険者の不自然さ、渡り鳥を救った善大王という奇妙な図式には以前から疑問を抱いていたのだ。
「……味方同士で隠し事はなしだ。だが、これは内密にして欲しい――エルズは俺とフィアの娘だ。もちろん、義理の娘だが」




