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――ダストラム、宿屋内にて……。
「らいとーこのままだと時間がもったいないよー」
「……その格好で言われてもな」
フィアはベッドでごろごろと転がり、完全に堕落――くつろぎきっていた。
そんな彼女を呆れた目で身ながらも、善大王は動きやすい服に着替え、今にも外に出ようとしていた。
「どっか行くの?」
まだ戦う時ではないと分かりながらも、フィアは急にベッド上で起き上がり、四つん這い――前屈みになった。
「ちょっとした用事だ。それと、まだ出ないから安心しろ」
そう言いながら、善大王は近くの椅子に座る。
急いた気持ちが空振りに終わり、フィアはふて腐れるようにベッドに転がった。
「……時間がもったいない、か」
「そうでしょ」
「確かに、ここでアジトを攻撃するのが得策だろう。だが、それがもし空振りに終われば、ガムラオルスを始末することになる」
「えっ? ……あっ、確かにティアが可哀想だね」
「お前、友達甲斐がない奴だな。知ってたけど」
「むかーっ! ライトにそんなこと言われたくないよ!」
「忘れたのか? ミネアはガムラオルスを連れ帰ってきてと言ったんだ。あのミネアが。ここで自分の都合を優先し、盗賊ギルドを潰しにいけば……あの意地悪な顔が、ずっと曇ることになる」
結局のところ、彼は少女のことばかり考えていた。
アジト突入を控えているのも、彼が表に出てくることを待っているからだった。実際に対面できれば、話し合う機会が生まれる。
アジトの場所が判明した以上、途中で寝返れば間諜として盗賊ギルドに潜り込ませた、という言い訳が十分に通用するのだ。
これを彼本人に伝え、その上で意志を問う。一度目で最悪の選択をした相手に、もう一度チャンスを与えるのだ。
ここで潔く従えば、ミネアの願いを果たすことはできる。
今回の場合、拒否は戦闘の開始を意味する上、現場には即席で組んだ四人組で赴くことになるのだ。戦力を考えれば、寝返る可能性は十分にあった。
客観的に言えば、ここにいる四人は圧倒的なものだった。事実、火の国の方針を知りながらも盗賊に付く、という無謀をやってのけたガムラオルスも、姿を現さずに隠れたままである。
「ライトって……優しいよね」
「そりゃな」
「でも、光の国の人には優しくないよね。それと私にも」
「……ああ、そりゃ反省している。いくらシナヴァリアが頼りになるからといって、もう随分と玉座を空にしちまってる」
「ライト……許すよ。そこまで反省してくれてるなら」
「えっ、あ……フィアに対してはそこまで反省していないけどな?」
「えっ」
「えっ?」
二人は見つめ合ったまま、硬直した。
「な、なんで私だけ除外!?」
「いや、フィアは今更だしな。というより、お前も容赦なく俺に迷惑かけているだろ。お互い様だ」
「……う、うん。そうなのかな?」
「ああ、俺がお相子で手打ちにしようって言ってるんだ。ここは受けておいたほうがお得だぞ?」
「そ、そんな気がしてきた! うん、じゃあお互い様だね」
「そういうことだ。よし、そろそろ行くとするかな」
フィアは簡単に丸め込まれてしまった。
ただ、彼女が迷惑をかけているという部分については否定のしようもなく、この町での滞在中も容赦のない散財を続けていた。
席を立った善大王は流れに任せ、行き先を告げずに部屋を出た。フィアもよく分からないまま理解――した振りをしたからか、これを制止することさえ忘れていた。
「(っても、フィアの言い分も全くもってその通りだな。自国のことより、目の前の困っている者を救おうとするなんてな……まるで、善大王みたいだ)」




