表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
978/1603

11f

 全く予期せぬ返答だったからか、彼女は言葉を失った。


「お前は言ったな、スタンレーがお前の意識を支配しているのは、あの姿に変わっている時だけ……と。だが、スタンレーの姿が解除された後、お前は譫言(うわごと)を言っていた――奴の言葉の続きとして」


 譫言であるからして、記憶にないのは当然だった。だからこそ、彼女はわけが分からなくなった。


「死の運命を変えた……という類の内容だった。あれは、スタンレーがお前を生存させることを目的とし、言ったんじゃないか?」

「そんな、こと……な、ならワタシが戦っていたのはおかしいじゃないですか」

「奴が救いたいと願いながらも、守るべきお前の体を使った理由――それは、お前自身がスタンレーだからだろ? 正確には、お前の中にもう一人の誰かが入っている」

『なるほど、この男はなかなかに勘が冴える。お前のことをよく理解できている』


 何者かがいるはずだが、誰も居ない。かのヴェルギンでさえ、彼女の中に誰かがいるという事実には気付きさえもしなかった。


「そんなことない! ワタシはワタシ! スタンレーさんとは違う! ワタシはもっと駄目で、あの人みたいに凄くなくて……」

「仮にも、お前は俺と同じ《選ばれし三柱(トリニティア)》だ。お前の本当の力は、自分で考えている以上にあるはずだ」

「ワタシは《秘術》も使えない……そんなワタシがスタンレーさんのわけが」

「お前の神器、《屍魂布》だったか。あれの効力が融合であるならば、別の属性を持つ人間を取り込みさえすれば、使えてもおかしくはない。ただ、そう考えることができなかったんだろうな」


 ガムラオルスは、彼女の謎を解き明かしていった。

 確かに、《屍魂布》の能力を駆使すれば、全属性を行使することは可能だ。その上、彼女自身は七属性全てを使えるという《超常能力》を有しているのだ。

 彼女が《秘術》を使()ない理由も、彼の読み通りだろう。導力の比率や導式の内容などもスケープは把握しているのだ。

 それでもなお使おうとしないのは、自分にはできないという思い込みが働いている為だ。

 《秘術》が使用者の願いを還元し、発動されるのと同じように、使用者が絶対に使えないと考えていれば使えなくなるのも道理。


 強い誰かに守ってもらわなければ、生きていけない。幼少期の彼女が抱いた絶対的な無力感がこうした考えを育み、肉体が精神を置き去りにしたような具合になったのだろう。


「違います……違うんです! ワタシは……ワタシは身を売るような低俗な女で、無価値で無意味で……スタンレーさんとは違って、駄目駄目で――」


 頭が現実を受け入れられず、盲目的な思考に陥りだしたスケープを見てか、ガムラオルスは静かに起き上がった。

 頭を抱え、否定するような言葉を並び連ねる彼女を黙ったまま抱きしめた。スケープが落ち着きを取り戻すまで何もせず、何も言わずに抱きしめ続けた。


 自分とは違う熱を持つ肉体に抱きしめられ――少し苦しいというほどの圧力で抱きしめられ、彼女が嫌うような要素を多く含んでいたはずのそれは、これまでなかったような安心感をもたらしていた。


「(ワタシじゃない人の温度なのに、ワタシを傷つけるような痛さなのに……)」


 人間嫌いのスケープは、人と関わる度に吐き気を催すほどの嫌悪感を抱いていた。

 しかし、この抱擁はそんな彼女の嫌い(・・)を塗りつぶすように、穏やかであった。

 言葉もなく、無償で自動的に与えられるぬくもり――愛情は、彼女が最も望んでいたものだった。


『これからは、お前だけで――その男に頼りながらでもいい、生き延びろ。おれなどに頼ることはなく、自分の力で』


 頭の中で聞こえてきた声はくぐもっており、普段のような明瞭さはなかった。いつものような強さはなかった。

 だが、スケープは不安になることもなく、勇気づけられたように頷いた。


「(スタンレーさん、ありがとうございました)」


 ふっと彼女の中にあった(おも)しが消え、入れ替わるようにして、種のように微量な自信や自我が芽生えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ