10v
それから何日かが過ぎた。
ガムラオルスは過剰な導力の精製により、たまに目を覚ますことはあっても、水飲みや軽食を済ませるとすぐに寝てしまった。
疲弊の傾向の強い彼を看病していたスケープは、彼の為の食事や水を用意し、まれに彼の体を拭いて清潔を保っていた。
彼女はこうして見守っているだけで、彼がどれほど苦労して治療に当たったのかを想像し、申し訳なさやありがたさを感じ始めていた。。
他人事を他人事とせず、自分の事と重ね合わせながら考えるなど、彼女らしくもない共感性に富んだ行為だった。
「あなたはどうして、他人に優しくできるの?」
答えはない。
ただ、彼女もそれが返ってくるとは思わなかったらしく、頭の中で思考を巡らせた。
「(ワタシの体が目当て? それとも、同情? ……盗賊になったのなら、ワタシに価値なんてないはずなのに)」
彼女は未だに、自分とガムラオルスを繋げているものは、アジトの場所――盗賊ギルドを壊滅させる為の情報だと考えていた。
それに次ぐ要素が体。文字通り、この二つだけが確固たるものだと思っていたのだ。
『何かを悩んでいるのか?』
その声は、スタンレーのものだった。
「ご無事だったんですか?」
『死の未来は覆した。これでもう、おれはやるべきことを成した』
「えっ」
『お前と接触する必要はもうないだろう。予見したものと違ってはいたが、お前にはお前の居場所ができたんだろう?』
普段とは違う優しげな声に、スケープは困惑した。
「居場所は……ワタシの居場所は、スタンレーさんのところだけです」
『おれはお前に多くを教えた。お前が一人になったとしても、生きてけるように――おれがお前を必要としなくなったのと同じように、お前もおれが居なくても問題はないはずだ』
「そんなっ――ワタシはこれから、どうしたら……命令してください。ワタシは何をしたらいいんですか」
「……スタンレーと話しているのか?」
唐突に聞こえてきた男の声は、眠っているはずのガムラオルスのものだった。
「あっ、これは……ただの独りご――」
『話があるなら、そいつにしてやれ。全てを計算していたわけではないが、この男はとてもお前にとって都合の良い男らしい』
「……分かっている。お前がどうであれ、俺は付き合ってやる。こうして盗賊になったからには、一蓮托生だ」
まるでスタンレーの会話に対応しているような内容だったからか、宇ケープは驚いたような顔をさいた。
「スタンレーさんの声が聞こえるんですか?」
「いや、聞こえてはいない。聞こえているとも言えるが」
「こんな時に面倒くさい格好付けはやめてください!」
「お前だろ、スタンレーは」




