8
――ダストラム、大衆食堂にて……。
「地下……だと?」
「ああ、ガムラオルスの魔力はそこで途絶えている」
三人は向かい合っていたが、ウルス一人が視線を逸らした。
「っても、ここのアジトはそんな深くないはずだが……」
「となると、お前が盗賊ギルドを抜けた後に事情が変わったみたいだな」
何事もなく発せられた言葉だが、切断者は見逃さなかった。
「何故、俺が元盗賊と知っている」
「……さっきの会話を盗み聞きしてたんだ」
「まぁいい、そこは深入りするべきではなさそうだ。しかし、場所が分かったとなれば――攻め滅ぼすということか?」
「お前はどう思う?」
よく分からない質問に、ウルスは眉を寄せた。
「どう思う……? 意味が分からないな」
「正直、俺は怪しいと思っている。中がもぬけの殻とは言わないが、ボスがいないという展開は十分にあり得る」
「ってことは、無駄足か?」
「一応、アジトの場所は判明したってところだな。スタンレーが運ばれるくらいだ、安っぽい拠点ではないだろう」
これには同感らしく、切断者は頷いた。
「……らいとっ! らいとっ!」
まるで犬のように、フィアは期待した表情で彼を見つめていた。
「それで、だ。俺は正直、アジト攻めをする時にはあんたと組みたいと思っている」
「ねぇ、らいとぉ……」
「俺と? 一応、用件は被っているが――こんな野良冒険者風情と組むつもりか?」
「ご謙遜を。戦前の時点で魔物を撃破した《紅蓮の切断者》殿だ、不足はないだろう?」
「茶化しているのか?」
「ただの癖だ、気にしないでくれ」
「魔物だったら、ライトも倒してたよね! 私の協力付きで!」
「――ただ、提案については本気だ。あのガムラオルスが敵側に回った以上、戦力は多いに越したことはない。それに、あんたの方が盗賊の勝手は分かるだろ?」
長らく無視されているからか、フィアは頬を膨らませ、涙ぐんだ――というよりも、大粒の涙を溜めた――目で哀願していた。
「なぁ、天の巫女の相手はしなくていいのか?」
「ああ、これはいつものことだ。それに、今はマジメな話をしている最中だろ?」
「私が魔力を探ったのに!」
「ありがとな。よし、これで問題はないだろう?」
「……天の巫女がこんななのも驚きだが、巫女相手にその態度を取れるお前も相当だな」
何十年も前に天の巫女を見ただけであるウルスからすれば、フィアのような例は驚きだったのだろう。
そもそも、フィアが異質なのは歴代を通してもそうである以上、このように感じるのも仕方がない。
「とりあえず、善大王に付くとしよう。ガムラオルスが向こうに付いた時点でどうかは知れないが、現状は盗賊ギルドを壊滅させるのが摂理らしい」
「摂理、ねぇ」
怪しむような態度を取っただけで、彼は明確な敵意や嫌悪感を滲ませたわけではなかった。
「私は手伝わないから。どーせライト冷たいだろうし」
「こういう具合だ。《紅蓮の切断者》、俺はこいつの機嫌を取らなきゃならない。打ち合わせはまた今度ということでいいか?」
「構わない。だが、早めにしたほうがいいぞ」
「分かってる。けどな、俺はあえて様子見の時間を長くするべきだと思うな」
善大王は軽い調子だが、その裏に何かしらの意図があると察したのか、切断者は頷いた。
「夕飯時には会おう」
「……明日からか?」
「もちろん。これからはフィアと忙しくなるからな」
高笑いをあげる皇を見て、ウルスは呆れかえった。
「ほどほどにしておけよ」
「おう、フィアが戦えなくなるまではやらねぇよ」
「ねえ! 私戦わないって言ったよね!」
「これからたっぷり褒めてやろうっていうんだから、そんな冷たいこと言うなよ」
そう言われると、フィアは簡単な女になってしまう。とはいえ、彼女は文字通りの意味に受けとっているだけで、善大王が何をしようとしているのかを正しく理解していなかった。




