6v
――十四年前……薄暗い、石壁の部屋の中にて……。
「光の国の介入があったってのは本当か?」
「ああ、あの実験室は完全に潰された。噂で聞く限りじゃあ、善大王が直々に出張ってきたという話だ」
「善大王が? まさか、光の国がこの砂漠の問題に首を突っ込む時点で異常だっていうのに、そこに正義の王様が関わってるっていうのは少し盛りすぎじゃないか?」
「俺も疑ってはいるがな。失敗を正当化させる為の嘘っぱちじゃねえかってな」
男達の声を聞き、少女は目を覚ました。
意識は冴えていないが、その会話は始めからしっかり頭に刻まれており、完全に覚醒してからは意識的に聞いていた。
「だが、一件で済んで良かったな」
「……そっちじゃねえだろ」
「あ?」
「あの実験室、聞くところでは不死の個体を出していたという話だ」
気分屋のような男は驚いたような顔をし「マジか?」と聞いた。
「こっちの実験室から送った間者が気付いたそうだ。幸い、まだ向こうの研究者は分かっていないらしいが」
「……蘇ったってことか?」
「ああ、死亡した状態を確認し、それが蘇ったのも見たという話だ。向こうじゃ、死亡判断が誤診だったという扱いになってるらしいが」
「ハハ、せっかく症例が出たとしても見逃しちゃ様ないな」
全く理解できない話題だが、少女は聞き耳を立てていた。同室――布もなく、冷たく、荒い削りの石材が四方を囲っているだけだが――の実験体達は、力なく倒れているか、気を違えたように叫んでいるかの二択だった。
しかし、理解できない会話を聞くという変な趣味があるだけで、彼女は至って普通だった。
「不死の個体が光の国に渡った、これが問題だ。ただし、あの実験室の成果が発表されることもなく、潰されたというのは好都合だ」
「難しく考えるもんだな」
「研究者ならば当然のことだ。我々の属性変化実験が一番手とならなくては、意味がない」
眼鏡をかけた男はそう言い、少女の方――正確には、実験体の部屋――を一瞥した。
それにつられるように、気分屋の男も目を向けてきた。
「なんだ? 実験体風情が俺達に文句があるっていうのか?」
少女は首を横に振り、部屋の奥に引っ込もうとした。
「待て」眼鏡の研究者は厳しい声で言う。
命令されるまま、彼女は足を止めた。だが、向きは変えない。背を向けたままだ。
その状態が長く続いたからか、気分屋は急かすように「こっち見ろよ」と低い声で命じた。
怯えながらも、少女の顔は硬直しており、明確な恐怖などは確認できなかった。
「あの娘――№Ⅶは実験開始からどれだけ経つ」
「ちょっと待っててくれ……あーなるほどな、一年は過ぎてる」
自身は覚えていないのか、帳簿を直に読み、気分屋は答えた。
「水の国から運ばれてきた個体――№Ⅻも一年だったか。不死実験の成功例も、ここと近い環境で一年以上生きながらえたという」
「まさか……こっちは二体も出たってことか?」
「飽くまでも一要因だ。だが、可能性はある」
少女は、明確な関心を含んだ視線――その裏に潜む、凄まじい邪さに恐怖を感じた。




