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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
970/1603

3

 戦いが終わり、姿を現した善大王とフィアを見て、ウルスは呆れたように肩を竦めた。


「……見てたなら、手を貸せよ。善大王様」

「善大王様なんてよそよそしいな――ただ、俺が手を出してどうなる問題でもなかっただろ」


 二人は直接の面識を持たないはずだが、どこか馴れ馴れしい態度で接していた。

 それは一種の癖なのだろう。冒険者とは他の冒険者と接触する際、多くはこのような態度になる。

 二つ名を持っている者であれば、それを名として使い、話すのだ。

 ウルスの方は彼が冒険者だという認識がないのだが、その慣れ親しんだ話し方につられてしまったのだろう。


「そっちの巫女さんだったら打ち抜けたんじゃないか?」


 フィアは自分に視線が向けられると気付くと、急いでかぶりを振った。


「テ、ティアの恋人だから……そう言うのはやりたくないの」


 この場でその判断はどうなのだろうか、と大人二人は感じていた。ただ、フィアからするとそれは重要な問題だった。


「あいつがまさか盗賊側につくとはな。知っていたのか?」ウルスは問う。

「まさか。俺達はあいつのお守りより、盗賊ギルドを潰す方を優先しているんだ。一々動向を探ったりしてないぞ」

「……そうか」


 深くは追求できず、切断者は会話を止めた。


「(でも、ガムラオルスさんが盗賊になったのって、ライトが脅したからだよね)」

「(発破(はっぱ)をかけてやったつもりなんだがなぁ……ま、若くても年でも、マズイと思った時に限ってろくでもない選択をするものだ)」


 全く反省していないような口ぶり――話してはいないのだが――の善大王に、フィアは呆れた様子を見せた。


「(分かってたなら止めてあげればよかったのに)」

「(……そうでもないさ。フィア、ガムラオルスの魔力は探れるか?)」


 少し考えた後、フィアは目を大きく見開き「あっ、そっか! ガムラオルスさんを追えばアジトが分かるってことだね!」と大きな声を出した。


「おい」

「なーるほど、善大王様は俺と《風の太陽》を餌に使ったわけだな」

「あはは、それは誤解というものだよ。私は善大王だよ、善の規範たる私がそのような真似をするなどと――」

貴族(あくとう)相手に頭下げて、貴族のご機嫌取りをして、挙句に貴族達に推挙される形で最高位に到達した奴が何を言う」

「……ん? お前、もしかして俺を知っているのか?」

「どういう――ん……確かに、別の誰かと勘違いしていたらしい」


 記憶としては確かなものだった。

 事実、冒険者時代の善大王は貴族に媚びを売り、脅威の速度で《虹へとの到達者》となったのだ。

 だが、ウルスの中に存在していた《虹の到達者》は今の彼とは合致していなかった。


 ――いや、むしろ当時に善大王(・・・)を意識していた彼だからこそ、違和感に気付いてしまったのだろう。


「(ライト、もしかして今のって)」

「(俺のことだな。ただ……どうにも、善大王になった後の俺と、その以前の俺との乖離が激しくなっているらしい)」


 時を追う毎に――彼が《皇》に近づく毎に、彼の過去は上書きされていく。それは他者に及ぼしうる干渉に留まらず、当人の記憶さえも歪ませている。

 既に、彼は冒険者以前の記憶を有していないのだ。自身で辿ろうとしても、どこの生まれだったのか、誰の子だったのかも分からないという段階だ。

 完全に過去が上書きされた時、彼は真に《善大王》となり、名の通りの人間として確立される。


 《皇》の身内が現れないことも、それが明らかにならないことも、全てはこれが原因である。


「(ライト、でも私は覚えているよ。絶対、どんなことがあっても、ライトの――善大王になる前のライトを忘れないよ)」

「(そうしてくれるとありがたい。皆が()を忘れるだけではなく、俺自身も()を忘れてしまいそうだ)」


 自分が消えてしまうという認識を得ながらも、彼は僅かな恐怖を滲ませる程度で、判断を違えはしなかった。


「話を戻そう。正直、お前達を利用したところで、それに問題はあるまい。むしろ、俺は皇としては凄く寛容(かんよう)な態度で接したつもりだが」

「……俺に仇討ちの機会を与えたつもりか」

「そのつもりだが」


 善大王はほんの少しの謙遜(けんそん)も遠慮もなく、ただ実直に事実を答えた。


「その上、あのガムラオルスに対しても寛大な処置を行った。あいつが罪から逃れうるだけの手段も教えてやった――無論、奴がどういった手を取ろうとも、俺には何の影響もなかったが」


 無難に軍資金を返却してくるようであれば、彼を国に戻すように提案したことだろう。それだけの真面目さであれば、戻したところで問題は起こさない。

 順当に盗賊ギルド壊滅方針へ戻れば、善大王が問題を解決することで、彼を復帰させることも可能となる。

 最悪の状況の盗賊ギルドへの加入にしても、全くの情報なしの状態と比べれば、彼自身が一種の目印に変わる。敵に戦力増強を許すことになるが、フィアを擁する彼にしては大した問題ではない。


 相手が何をしようとも、結局のところは彼の利に転がり込む行動となる。シナヴァリアと同じようなやり方をしている辺り、二人の相性がいいのも当然のことなのかもしれない。

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