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善大王は確信していた。フォルティス王は力を絶対視している。
だからこそ、彼は無価値な文化を放擲し、彼にとって絶対な武力に全てを傾けた。
逆に言えば、事態を解決する方法もそこに関係してくる。
百の論を重ねようともフォルティス王は納得しないだろう。正当な理由とし、外干渉を防いでくる。
だが、善大王としてフォルティス王を倒せば、文句は言えなくなるだろう。
他の国ならばともかく、力を絶対とするフォルティス王ならば考えざるを得なくなる。
さらに言えば、この政治的方向転換を賭けた決闘にすら、間違いなく乗ってくるだろう。
そこまで分かっていても、善大王としてはこの方法はよいものではないと考えていた。
暴力での解決ほど釈然としないものはない。彼は少女を日常的に襲うような破綻した人間ではあるが、やはり常識を持ち合わせているのだ。
「勝てるの?」
「前見た実力を見る限りは、おそらく勝てる。ただ、奴とて手札を全て晒しているとは到底思えない──しかし、それらは取るに足らないことだ。問題なのは、この解決法でいいのかどうか、だ」
問題はいくつもある。具体的にいえば、善大王が力ずくで政策を変えさせたという事実が残ること。
これはいかなる状況だとしても、他国に対して悪い影響を及ぼす。
フォルティス王が敗北の結果を周知するとは思えないが、少なくとも事実だけは揺るがない。
「じゃあ……」
「はっきり言う、手を出さないのが無難だ」
善大王になってまだ一年も経っていないが、彼は彼なりに王らしさを身につけていた。
ただ、それを納得できるフィアでもなく、不満そうに俯いた。
「フィア、俺は飽くまでも王だ。光の国の看板を背負っている」
「それは、分かってる。私も姫だから」
姫の自覚があるとは思えない人間性だったが、などと茶化すこともなく、善大王は窓際に立った。
外の民を見るだけで、その国の状況はある程度把握できる。
十割が満足した表情をした国はない。それでも、光の国は過半数を上回る数値の人間が笑みを浮かべて生きている。
暮らしやすく、治安も良く、信仰による意識革命などが行われていることが原因ではあるが、最大の要因は害がないことだろう。
善大王ができるのは、反面教師にすることくらい。このような国にならないように手を尽くしていくことだけだ。
しばらくし、彼はフィアを部屋に残して外に出た。
問題を解決しようとして動き出したのではなく、ただの気分転換の散策。その為、フィアを連れずに出ている。
彼が町を歩いていると、再び文句を言っている集団が目に入る。
別々の集団が各地で波状的に行動をしているのだ。もちろん、シアンが全てを抑えられるわけではなく、多くがある程度の時間を浪費した時点で自然消滅する。
水の国の人間は血気盛んではない為、不満こそいえど暴力に発展することは少ない。火の国であればすぐに殴り合いになってもおかしくないが。
ここでの問題は結果ではなく、現在起きている現象だ。
いくら攻撃性がないとはいえ、なにも起こらないとは断定できない。シアンもそれは承知である為、今のような活動を止めることはないだろう。
全てを処理していないとはいえ、シアンは全力でことに当たり、謝罪して回っている。彼女の精神的負担は決して軽くない。
「……合理的に、効率的に──シナヴァリアならそう考えて動かないだろうな、確実に」
彼の頭には自国宰相の仏頂面が浮かび上がっていた。
一般的にいえば怖いはずのそれを思い出しながらも、彼は笑う。
「まったく持って不真面目な王様だ」
善大王は決意をし、シアンを探した。




