表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
969/1603

2s

「……やはり、摂理には逆らえないか」


 スタンレーの指先はウルスの喉に当たっていた。


「これで終わ――」


 言い切ろうとした刹那、スタンレーの体は真っ赤に発火した。


「俺はあの場で、ストラウブ(・・・・・)を消すべきだった。そうすれば、お前は自分で世界を歩くしかなくなっていた。そうなれば、きっと多くのことを知ることができた――俺の甘さが、ここまで歪みを広げてしまった」


 オキビの首には僅かにも傷がなく、それとは対照的なスタンレーは肉体が焼き焦げる激痛に襲われ、地べたに這いずりながら救いを求めるように片手を伸ばした。

 彼はスタンレーが超人的な予知を使わなくなる瞬間を待ち、その一瞬に奇襲を仕掛けたのだ。


 近接状態にあれば、動作など必要がなかったのだ。司書が自らの手で彼を触った瞬間、その点を噴射部として炎を逆流させた。

 先を見ていない状態のスタンレーからすれば、この刹那の返しに対応する手段はなく、体内を巡る導力路を焼き焦がしていく炎を消す(すべ)もなかった。


「もし、あの時にお前が俺の提案を呑んでいれば、俺は見逃していた。自分の撒いた種だ。それを消し去るにしても、それを正すにしても、その責任は負う気だった」

「ぁ……が……」


 もはや勝負あったか、と誰もが思った。

 ウルスは最初から、勝つべくして戦い、そして勝ったのだ。幾度も許そうとし、殺せる機会を先延ばしにし続けながらも、やはり勝利した。


「お前を欠けば、盗賊ギルドは自然に瓦解する。無論、今度は本物のストラウブを呼び、ケジメは付けてもらう――」


 勝利を確信していたウルスは、それに気付いていなかった。

 魔力も放出することなく家々の屋根を飛び越え、自身を射程範囲に入れるほどに接近してきていた者に。


「躱せ!」

「!?」


 どこからともなく聞こえてきた叫びにより、彼は咄嗟の回避行動を間に合わせた。

 直上から降り注いだた緑色の光は、油断した人間を殺しうる出力だった。

 瞬時に刺客へと斬撃を放とうとしたが、光の発射点には既に誰もいなかった。


 凄まじい轟音を立て、人智を越えた機動力を発揮した神器は、(あるじ)を燃えさかる男のもとへと運んだ。

 スタンレーの(すけ)()かと思われたが、ウルスはどこかで油断を残していた。

 炎はそれ自体がエネルギーを発生させる力であり、使用者が消そうとしない限り消すことはできない。発火直後ならともかく、ここまで燃えさかってしまえば、なおのことである。


 だが、その場に現れた焦げ茶色のローブに身を包んだ男は、両肩より緑光を放ち、盗賊の体に直撃させた。


「(……こっちの味方か)」


 あり得ないことだった。しかし、そう感じざるをえなかった。

 なにせ、その攻撃方法は他でもなく、ガムラオルスのものだったのだ。

 気持ちを切り替え、盗賊ギルド壊滅の方向に動き出した、と考えてもおかしくはなかった。


 しかし、彼の攻撃によって、スタンレーの身を包んでいた炎は消し去られた。

 それを確認した瞬間、ガムラオルスは脱力しきった司書の体を抱きかかえると、そのまま空へと逃げていった。


 切断者の攻撃範囲を離脱するのに、瞬き一回をする時間もなかった。


「あれが《風の太陽》の機動力か……」

「取り逃がしたな、《紅蓮の切断者》」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ