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――現代……火の国、ダストラムにて。
「(あの後、師匠は戻ってこなかった。もちろん、巫女様も――あの後、三人がどこに消えたかは分からないが、スタンレーが巫女様と関係がある可能性は高い)」
明確にその可能性を感じ取ったのは、ごく最近のことだった。
彼の実力は、明らかに《選ばれし三柱》クラスの――人間としての規格から外れたものだった。
その上、全属性を使えるともあれば、異常性は並外れたものとなる。
なにより、彼の持つ空色の瞳は先々代の天の巫女、《空色の宝石》とも謳われた彼女のそれを想起させたのだ。
「(ストラウブが事情を知っている可能性も、少なからずある)」
盗賊ギルドの壊滅、組織とギルドの関連性の調査、それらが火の国に訪れた最たる要因だった。
だが、彼としては別の用件が主な目的となっていた。つまりは、二十八年前の真実を知る、というところだ。
「あのガキ、どこで拾った」
「……砂漠だ」
「ハッ、昔も今も大差ねぇな。それで、どんな町に落ちてたんだ?」
彼の口調は普段通りだが、どこか自嘲気味な笑いが含まれていた。
「砂漠だ」
「……なんの冗談だ」
「あの子を見つけたのは、なにもない砂漠だった。両親もなく、捨てられたように置かれていたのだ」
「(どういうことだ? 砂漠に子供を捨てる……なくもない話だが――)」
「脇道に逸れるのはこれくらいにしよう。本題だ、お前は何をしにきた。この場で俺を殺すつもりか」
「……アジトの場所を吐け」
「俺は盗賊ギルドの――部下を守る為に来た。自身の保身が目当てなら、お前の前に来るはずもない」
「アジトの場所さえ分かれば、焦土に変えることができる。俺の能力については、お前がよく知っているだろ?」
かつて焦土師と謳われたオキビは、ベイジュの命令に従うまま、多くの町を灰燼に帰していった。
その町、その村、その集落、燃やされた全ての場所はまさに焼け野原であり、何一つ残らなかった――家屋だけではなく、亡骸さえも。
「我々を救うとでも言うつもりか」
「仮にも一度は世話になった組織だ。今のやり方、お前を認めたわけではないが、ギルドが跡形もなく消えるというのはいい気がしない」
ウルスはウルスなりに感傷に浸っていた節があった。
汚い経歴と言いながらも、彼からすれば盗賊だった時の自分も歴とした一部なのだ。
それを切り捨てる、ということができないほどに、彼は人間の連続性を理解していた。
「だが、そうなればお前が追われることになるぞ」
「こちらの要求は三つ。一つ、アジトの場所を教えろ。二つ、この戦争の決着が付くまで、隠れていろ。三つ――スタンレー、俺に手を貸せ」




