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誰もが絶望する中、瀕死寸前で生きながらえていたビフレスト王は立ち上がり、賊の後を追おうとした。
そんな彼を止めようとする隊員達が集まってきたが、王は力なく、でありながらも他を威圧するようにして払った。
「妹を……見捨てるわけにはいかないだろ」
「で、ですが――その傷では」
「うるせぇ! 俺が行かなきゃ誰が行くんだよ!」
彼が行ったところでどうしようもないことは、誰が見ても明白だった。
しかし、それを指摘できる者がいるはずもなく、全員はどうすればいいのかと迷いに囚われていた。
「……王子、いえビフレスト王。あなたの父があの者に殺されたのは、ぼくが確認しました」
「なんだ、なにを言いたいバリオン」
「この国の王族は、あなたしか残されていないということですよ。そのあなたが、ここで命を絶えさせようものなら――天の国はそれまでにないほどの混乱に見舞われます」
「それがどうしたッ! 俺はこんな国の王になるつもりはない。妹を救う為だったら、奴と差し違えてでも――」
「ですから! ……彼の追跡は、こちらで部隊を編成して行います」
部隊の中では年長者に当たるバリオンは、未だ若々しい王に代わって案を提示した。
「いえ、それには及びません。彼の追跡は私一人で行います」天の太陽は言う。
「師匠! なんってことを」
「そうですよ。彼の力は先に見たとおり……あなた一人では」
二人は止めるが、ビフレスト王はそれを否定することもなく、彼の目をじっと見つめた。
「できるのか」
「命に賭けてでも、巫女様を連れて帰ってきます」
「――分かった。必ず連れて帰ってこい」
コクと頷くと、天の太陽は皆の制止を無視して走り出した。
迷ったウルスだったが、すぐに師匠に追いつくべく、駆け出そうとした――が。
「君はこの場に残ったほうがいい」バリオンは肩に手を置くと、小声で言った。
「どうしてですか!? できることなら、師匠の為に戦います! その為にいままで……」
「君が行ったところで、彼の助けになれるとは思えません。それに――彼はきっと、我々のような邪魔が入らない場所の方が自由に戦えるのでしょう」
ウルス少年は息を呑んだ。
天の太陽が《選ばれし三柱》であることは、表向きには知られていない。
しかし、バリオンは明らかにそれを察したような反応を示していた。
事実、先ほどの戦いも二人の人質が取られたことで、師は戦うまでもなく敗北することになったのだ。
時間を支配する能力を持っていたとしても、それを使うことのできない者を守りながら戦うとなれば、アドバンテージはあっという間に吹っ飛ぶ。
その点、この時間流という枷に縛られていない彼だけであれば、何の制限もなく戦うことが可能だ。
「君の師匠を信じなさい。きっと、彼なら巫女様を連れて戻ってきますよ」
その言葉を信じ、ウルス少年はその場に残り、小さくなっていく師匠の背を見つめた。




