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「バリオンさん……どうしてここに」
「君を助ける為ですよ。まさか、単身で一課隊長の相手をしに行くとは、ぼくも考えていませんでしたが」
「し、師匠は!」
「オイ、オレ様を無視して楽しくお話してンじゃねえよ」
黙って聞いてはいなかった天の月は、ゆっくりをバリオンへと近づいていく。
「王の殺害……ですか。いままでも行き過ぎたことをしていましたが、これは冗談で済む話ではありませんよ」
「で、お前はどうすンだ?」
「あなたと戦うのはやめておきましょう。勝てる気はまったくしません」
「ハッ、分かってンじゃねえか、マジメ君のくせによォ」
「一課の方々は、もう投降済みですよ」
「……ほぉ」
姫や王の有事だというのに、誰一人としてあの場に訪れることがなかったのは、表で一課の者達が派手に暴れ回っていたからだった。
二課隊長にして、後のフィアの父親となるビフレスト王子はエースにしてライバルの天の太陽、そして二課の面々を連れてこの対処に回っていたのだ。
「割り当てられた十人を早めに処理し終えたぼくが、こうしてあなたの前に立っているわけですが」
「そういえば、速さだけはあのカスより上手だったなァ……だがよォ、勝てねぇと分かった上で来るとは、頭は悪かったみてェだな」
「まさか――あなたの相手は、天の国の全員ですよ」
怪訝そうな顔をした天の月は、すぐに気付いた。しかし、速度に関して言えばやはりバリオンが上手だった。
「雨にも風にも負けない《怒濤の嵐》」
《秘術》の《魔導式》の量ともなると、かなり膨大なものとなるのが基本だが、バリオンはそれを通路の各所に散らしていた。
それを瞬間的に集結させ、発動に足るだけの《魔導式》の量を気付かれることもなく手配したのだ。
《魔導式》が煌めいた瞬間、城下を一望できる窓は一斉に砕け散り、途轍もない風圧によって天の月は城外に吹っ飛ばされた。
「やりましたね! これであいつは――」
「いえ、彼が転落死で終わるということはないでしょう。ですが、あの方角には二課の面々が待機しています」
「ってことは!」
「はい、いくら彼でも二課の全員と戦うとなれば――」
バリオンは自身の思考に混じっていた違和感の正体を掴んだらしく、振り返った。
そこに、天の巫女の姿はなかった。うっかり吹っ飛ばされたということもなく、彼女が勝手にどこかへ逃げたということもなかった。
「……これはまずい事態になりましたね」
「どういう……」
「彼はおそらく、ぼくが《秘術》を発動することも、下で二課が待ち構えていることも分かった上で――あえて攻撃を受けたふりをしたようですね」
口調こそは穏やかだが、その顔には明確な焦りが滲んでいた。




