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――ダストラム、閑散とした広場にて。
「来たか」
「……これで、暴れ回るのはやめるんだな?」
「ああ」
ウルスの前に現れたのは盗賊ギルドのボス、ストラウブただ一人だった。
「なんのようだ」
「……どうやら、盗賊ギルドが終わる時が来たようだ」
「終わる時だと?」
「俺と同様の力を持つ人間が三人、そして善大王……これだけの人数、実力を持った精鋭が貴様を殺す為だけに集められた」
そのあまりに凄まじい面々に、ストラウブは顔を歪めた。
「フレイア王の方針だ。いつまでも、お前等無法者を放っておくわけにはいかないらしい」
「我ら盗賊が何をしたという」
「さあな、なにが癪だったかは俺にも分からねぇよ。ただ、俺は好都合だと思っている」
「なに……?」
「俺は現ボスを認めない」
盗賊としての――オキビとしての発言が飛び出し、ボスは顔を顰めた。
「いまさら、抵抗か。それとも、仇討ちか?」
「いや、過去の清算だ。盗賊ギルドには俺の汚い経歴と共に消えてもらう」
「ふん、相も変わらず割り切りの強い男だ」
「大物ぶってんじゃねえよ、元下っ端の雑魚が」
怒りにまかせた言葉のようだが、これは事実だった。
ストラウブは下っ端の盗賊として、それこそ酒場のマスターのような末端の盗賊にすぎなかった。
戦闘の才もなく、盗みの技術は稚拙で、残虐性に欠けていた。
半端者の愚図とされていた男が、ある時から急激に求心力を得、最終的にベイジュと派閥を競うまでになった。
「では、お前はなんだ? 付き従っていた主を見捨て、逃げ出した臆病者か」
「ハッ、言いやがる」
「事実だろう」
「ま、事実だな。だが、俺にも逃げなきゃならねぇ理由があった」
言い訳のような発言だが、それが嘘ではないことをストラウブは見抜いていた。
「あのスタンレーとかいうガキを見た時、俺はその可能性を見た。あいつからは普通の人間とは違う量の……違う質の力が放たれていたからな」
「ほう」
「奴が盗賊ギルドを変革する者とも思った。だが、奴からは革命をもたらす者の気配の他に――それを支援する者の力を感じた」
黙って聞くストラウブをじっと見つめ、彼は口を開いた。
「巫女、それも天の巫女と同質の気配だ。その上、あの空色の瞳、金色の髪……どうにも、俺の知っている巫女と似ていた」
「二代前の天の巫女、か」
「知った上で、あのガキを拾ったのか?」
「さて、どうだろうな。だが、お前がその時期には天の国に属していたことは知っている」
ウルスは気を悪くしたような顔を見せ、視線を逸らした。
「お前の――あのガキの進んでいく方向が革命者によるものだとすれば、それは《選ばれし三柱》が口出しする問題じゃない」
「自ら退いたとでも?」
「無論、俺がガキの時点で叩いていれば、ボスがギルドの支配権を握っていたことだろう。だがな、俺は革命者を潰すような真似はしたくなかった」
世界に変革をもたらす者は得てして、多くの危機と相対することになる。
だからこそ、大抵は志半ばに淘汰され、革命は成立しなくなる。
それを理解しているからこそ、彼はあえて見逃していたのだ。越えられる関門の人間であればともかく、彼のような特異な力を持つ者が出張っては確実に阻止できてしまう。
事実、彼は革命者であると判断したディードに対しても、トドメを刺さずに逃がす、というおかしな真似を取っていた、
「(しかし、あのガキがもし……あの巫女様と関わりがある男だとすれば――)」




