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「フィア、ちゃんと仕事できたか?」
「ええ、やればできるから」
善大王はフィアと別れ、二手で情報収集をしていた。
対人関係が最悪なフィアに任せて大丈夫なものかと心配はしていた善大王だが、それでも彼女の自立を促す為にも成果は求めずに行った。
結果から言うに、最良の報告を引っ提げてフィアはやってきた。
「なるほど、不満を訴える行動も規模を増しているわけか。それでシアンも城下町の各地に巡っている、と」
「そうよ」
「これ、フィアが調べたのか?」
「そうよ」
「……聞き込みとか?」
「…………そうよ」
能力を使ったんだな、と察した善大王は敢えてなにも言わずに流した。
フィアが申し訳なさそうに、それであって隠そうという態度を取っていることで、とりあえずは妥協点としたらしい。
肝心の善大王は少女に限定して聞き込みをしていた。彼の場合は話さずとも情報を引き出すことができるが、半ば趣味的に聞き込みしていた。
ついでに言えば、そうして話を聞く最中にも少女と裏路地に入り、軽く済ませていた。幸い、フィアには気づかれていない。
「総合するに、シアンに対する憎悪は全くないみたいだな。まぁ、民も哀れみを覚えているんだろうな」
フォルティス王の悪政はここ数年の内に行われたことだが、シアンはかなり早い段階から今のように動いていた。
それにもかかわらず民が怒りを溜めていないのは、内心解決しないと諦めているのが原因なのかもしれない。
言ってしまえば虚勢。状況の悪化を防ぐという名目を元に、正当な状況として怒りを発散しているのだ。
シアンが割って入らなければそれを止めるものもなく、数多くの兵士達が心を病んでいたかもしれない。
それどころか、止め時を失って暴動に発展するかもしれない。そういう意味でいっても、シアンの行動はそれらを理性的に鎮めていた。
「……はっきり言って、シアンが納得しているならば止めない方が無難だな」
善大王は飽くまでも王として、人々を統べる者としての意見を述べる。
「それじゃあんまりよ。シアンだって人間だから、このままじゃ……」
「分かっている。ただ、病にしても一点を治して即解決とはならないんだ。一見悪くみえる症状が均衡を保ち、体を維持させている可能性もある」
善大王は一度区切る。「シアンの問題はこれと同じだ。目先の問題としてシアンをどうにかすれば、民衆がなにをしでかすか分からない」
シアンが表に立つ限り、民はある一点を越えることなく冷静さを取り戻す。
彼女が消えれば、間違いなく事態は悪化する。だからといって、民を黙らすには水の国が抱えている問題そのものを解決しなければならない。
いくら皇とはいえ、他国の政策を根っこから変えることは難しい。特に、相手が戦闘狂のフォルティス王なのだからなおさら。
「でも、ライトならどうにかできるよね」
「……初めから解決策は見えている。どうすればいいかも分かっている。その方法を取れば、九割九分九厘解決する」
「えっ、どこでそんな方法に気づいたの?」
期待するような目でフィアは善大王をみつめる。
ただ、その眼差しを受けながらも、善大王は苦い表情をしたままだ。
「最初からだ。問題を聞いた時、すぐに思いついた。ただ、それは相手の土俵に乗っかった、剛力の解決法」
「早く教えてよ」
「……ああ、簡単だよ。フォルティス王を叩きのめせばいい」