表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
956/1603

5f

 二人は長い、ただひたすらに長い通路を歩いていた。


「どうしてこのアジトはこうも長いんだ」

「……ある者の侵入を防ぐ為、だ。そして、それこそが貴様の役目でもある」


 ガムラオルスは僅かに首を傾げた。


「どういうことだ」

「この地下アジトは本来、先代ボスであるベイジュの――いや、歴代ボスが使ってきたものだ。そして、おれが長い年月を掛け、改造したものでもある」

「……つまり、本部であることは変わっていないということか?」

「ああ。とはいえ、当時のアジトに侵入するつもりでは、この通路には入ることはできない。スケープの案内があったからこそ、貴様も入ることができた」

「幻術、か」


 スタンレーは口許を緩めると「《魔技》と幻術の複合、というべきだろう。条件に合致しないものには幻術を、そして合致すれば真実が見える」と懇切丁寧に説明してみせた。


「この通路こそが本当の姿、というのも奇妙な話だ」

「安心しろ。貴様がここに立ち入るのは今日が最後……になる予定だ」

「予定だと?」

「もし、奴が攻め込んできた場合、貴様にはボスを連れてこの通路から逃げてもらう」

「奴? ボスを逃がす? ……知らない話ばかりだな」

「当然だ。他人に語るのは初めてだ。だが、未来(・・)がここまで近づいた以上、手を打たざるを得ない」


 長時間歩くと、再び階段が現れた。潜るまでに要した時間と同等の時を掛け、二人はその階段を登り終えた。

 蓋のような扉を開け放つと、そこはだだっ広く、何もない砂漠であった。


「……ここがアジトか?」

「まさか。貴様にはこの通路を記憶させておく必要があった。本来であればおれがボスを連れて行くべきだが、奴と渡り合えるのはおれだけだ」

「奴とは何者だ」


 スタンレーは不毛の砂漠を見つめながら、冷たい視線で彼を見た。


「《焦土師(ファイアースターター)》のオキビ――いまは《紅蓮の切断者》……ウルスと名乗っているようだが」


 その単語が出た瞬間、ガムラオルスは唾を呑んだ。


「奴、か」

「貴様は奴を知っているのか」

「……必要最低限は、な。だが、奴と戦うなら俺が適切だ。なにせ奴は――」

「《選ばれし三柱(トリニティア)》……だろう? そんなことは知っている。そして、奴がその特異能力者達の中でも上位にいることもな」

「俺では不足だと?」

「貴様なら万が一にも勝てる見込みがない……とは言わない。《選ばれし三柱(トリニティア)》の戦いに絶対はない。だが、貴様の翼は逃亡に適している。奴から逃げ去る為にな」


 逃亡に適した翼、という単語を聞き、ガムラオルスの顔に影が差した。


「あの通路を飛行状態で走破しきる……それが貴様に要求する、唯一のことだ」

「俺は誰かの命令を聞く気はない」

「盗賊になる為の試験、とでも考えろ。この一件をやり過ごせば、あとは貴様の勝手だ」

「……スケープはどうなる」


 スケープの名が出たのを確認した瞬間、スタンレーはよりいっそう、顔を綻ばせた。


「盗賊になれば、あの女は貴様にくれてやろう」

「……スケープを物みたいに言うな」

「ならば、自由にしてやる。あいつがお前について行くかどうかは知らんが……それで構わないな?」


 司書はスケープがどういった手段でガムラオルスを手籠(てご)めにしたのかを理解した。

 だからこそ、彼女を餌にすることで彼を支配できると判断した。


 故に「くれてやる」という言葉に偽りはなく、この戦いが突破できさえすれば円満に渡すつもりでいたのだ。


「ああ、あいつは俺に付いてくる」

「フッ、相当な自信だな。では、おれはここで去るとしよう――さらばだ」


 そう言うと、スタンレーは霧に包まれながら消え、若干疲労した様子のスケープが戻ってきた。


「あれ? 終わったんですか? ……ってか、ここどこですか?」

「……あいつと話はついた。なんでも、ボスの逃亡を手引きすれば俺は盗賊の仲間入り、らしい」

「へぇ……って、まだ盗賊じゃないんですか?」

「さあな。少なくとも、奴の指揮下に入ったことは間違いないだろうよ。そして――ボスを逃がしきれば、お前は俺のものだ……スケープ」


 当人は知らないだろうと、ガムラオルスは最初にスタンレーの告げた条件を述べた。


「あの人は」

「それで構わないとのことだ」

「……あの人が、それを許してくれたんですね」


 スケープはそう言うと、無言で頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ