4f
――ダストラム、地下アジト内にて……。
「こんなところにアジトがあったとはな」
「はい」
ダストラムのアジトは町の地下深くに存在していた。地下深くとはいうが、これは生半可な深さではない。
比較対象としては、首都ラグーンの地下に存在する超常能力者の町が適切だろう。まさに地上と隔離され、物理的な攻撃によって暴かれることのない場所だ。
娼館の一つが入り口となっており、そこから階段を下り続け、ガムラオルスは頻りにスケープの顔を見た。
「この先に、何があるんだ」
「……あの人が待ってます」
「スタンレー、か」
彼女がコクと頷いた時、ちょうど長い階段が終わりを迎えた。
そこは大きな広場だった。とはいえ、四方は石煉瓦で、幾つかの松明――導力の光を宿すタイプだ――によって灯りを確保しているという状態だ。
「通路が続くのか」
「はい。ですが……スタンレーさんはここにいます」
ガムラオルスは周囲を見渡すが、誰も現れなかった。
「おい、どういう……」
「スタンレーさん、この人は味方に組み込めました。来てください」
「……まさか」
スケープは言い終わると、神器で全身を覆い尽くした。
ほどなくして、奇術師の如くにスタンレーが姿を現した。
「まさか、お前がおれに付くとはな……当初の予定通りではあるが、だいぶ屈曲した道のりだった」
「……久しぶりだな、スタンレー」
「おれと戦うか?」
これっぽっちも信頼していないのか、スタンレーは構えを取らないものの、敵意を最大限に強めていた。
「いや、戦う気はない。ほら、神器も持ってきていないだろ」
「……まさか、本当に盗賊となる気なのか?」
「いや、それはまだ決めていない」
「どういう意味だ」
「スケープは言った。盗賊ギルドであれば、俺達のような、普通の奴らとは違う奴でも、受け入れられると……それは、本当か?」
あまりに間の抜けた質問だったからか、スタンレーは唖然とした。
「あの女がそんなことを言っていたか」
「本当なのかと聞いている」
「……ああ、本当だ。もとより、盗賊は世間からはみ出した者を受け入れる取り皿の役割だった。力量において、他を圧倒してしまった者もまた、例外ではない」
翼の担い手は頷くと「それが本当であるならば、俺は盗賊になろう」と言い、手を差し出した。
「……調子が狂う。だが、貴様ほどの男が戦力に加わるというのであれば、好都合だ」
司書は差し出された手を無視し、背を向けた。
「しかし、お前に火の国が裏切れるのか?」
「裏切れる。いや、そもそも初めから通じちゃいなかった。あそこに俺の居場所なんてなかった。仮にあったとしても、もうありはしない」
「……いいだろう。スケープが貴様を引き入れた手段は知らないが、どうにも貴様は盗賊に近い人間らしい」
「近い? 盗賊そのものだろ」
「分かった、認めよう……これからは同志だ」




