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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
954/1603

3

「何を話せば?」女は煙草に火を付けながら言う。

「現ボス、ストラウブの居場所を知っているか?」

「知るわけないでしょ」

「じゃあ次だ。ベイジュの使っていたアジト、もしくは盗賊が主として使うアジトの場所を教えろ」

「あの男がよく使っていた場所っていうなら、このダストラムのアジトか……ガーネスのアジトじゃないかねぇ」


 ガーネスの名を聞いた瞬間、彼は不意にミネアから聞いた話を思い出した。


「(アリトが制圧したっていう町か……)」


 その時点で、候補はかなり絞られる――というより、この二つにはないという結果が引き出された。


「(まぁ、無難に考えるなら以前に使われていたアジト、なんて使わないよな……この二つを除外できただけマシか?)」


 過去から場所を当たる、という手を取ろうとした善大王は出鼻をくじかれ、虚空を眺めた。


「にしても、ベイジュを倒した奴はどんな奴なんだろうな」

「さぁ、知らないよ」

「教えてくれたら、(かたき)討ちでもしてやるぞ?」

「どこの誰かも知らない奴に頼んで、どうなるもんでもないでしょ」

「俺が善大王、下の連れが天の巫女だとしたら?」


 あまりに現実離れした話だったが、ここまで手の込んだ真似をされたばかりということもあり、女性は目を丸くした。


「本当?」

「もちろん。そうじゃなかったら、ここまで大胆なことなんてしない……というより、あの子供がその証明といってもいいんじゃないか?」


 証拠は少なかったが、あっさりと信じ込んだらしく、女は急ぐように彼の手を掴んだ。


「ストラウブ派の男……ストラウブの腹心よッ!!」

「……知っているんだな」

「ええ、もちろん。あの男は約束を破って私を捨てたのよ! 挙句、金さえも寄こさないのよ! あなたが善大王っていうなら、あの悪人を始末してちょうだい!」


 善大王はこの時点でおおよその状況を把握した。


「(なるほどな。この女を餌にし、ベイジュへ不意打ちを仕掛けたわけか。その上……ずいぶんドライな奴らしいな)」

「盗賊ギルドの実権も、金も、何もかもをあの男は独り占めしたのよ!」

「分かった分かった。とりあえず名前だとか容姿だとか、そういう情報はないか? 具体的な部分がわかれば始末しておく」

「本当ねっ!? 嘘はない!?」

「ああ、もちろんだ。善大王の名にかけて」


 適当気味な対応だが、女はそれどころではないのか、焦るように言葉を紡ぎ始めた。


「金髪……藍色の髪の混じった(まだら)な髪よ。目は青い……フレイア人らしくもない外見なのよ。名前は……スタンレー」


 その名前が出た瞬間、彼は顔を(しか)めた。


「その名前は間違いはないな」

「えっ? ええ、当たり前よ。間違えるわけないわ」

「……なるほど。なら、予想より早く決着は付けられそうだ」

「なら、今すぐにでも殺してちょうだい! あの憎い男を!」

「もう時間だな。俺は出て行くとする」


 お(こう)が燃え尽きたのを確認すると、彼は案内を待たず、一人で店先に降りていった。


「楽しい時間を過ごせた。そいつの預かりも、助かった」

「はいよ、またどうぞ」


 完全に固まっていたフィアを起こすと、彼は未だ冷めやらぬ人だかりをかき分け、通りに出た。


「フィア、なにかあったのか?」


 歩き出してしばらくし、ようやく善大王は声をかけ――問いを投げかけた。


「なんか、すごいたくさんの人に見られた」

「へぇ」

「ライトぉぉぉ……すごい怖かったよぉぉぉお」

「客の連れを勝手に売ったりするわけないだろ」

「でも、いろんな人が聞いてたよ?」

「……ふむ、物好きは俺以外の他にもいるらしいな。いや、フィアが明るい子になったから、余計に可愛く見えたのかもしれない」


 冷静な分析を行う善大王に幾度も拳を立て、フィアは目を潤ませた。


「(まぁ、フィアは少女売春でなくとも目を引く風貌だしな……というより、あふれんばかりの殺気や拒絶感はだいぶ薄れているみたいだな)」


 彼と出会った頃のフィアは、そうした破滅的な雰囲気を纏っていた。

 その点で言うと、確かに最近のフィアは明るさを取り戻し、普通の子供並とは言わないまでも柔らかくなった。


「そ、そんなことより! 収穫はあったの?」

「どうにも、あいつとは縁があるらしい」


 首を傾げるフィアの手を引きながら、善大王は歩みを早めた。


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