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「何を話せば?」女は煙草に火を付けながら言う。
「現ボス、ストラウブの居場所を知っているか?」
「知るわけないでしょ」
「じゃあ次だ。ベイジュの使っていたアジト、もしくは盗賊が主として使うアジトの場所を教えろ」
「あの男がよく使っていた場所っていうなら、このダストラムのアジトか……ガーネスのアジトじゃないかねぇ」
ガーネスの名を聞いた瞬間、彼は不意にミネアから聞いた話を思い出した。
「(アリトが制圧したっていう町か……)」
その時点で、候補はかなり絞られる――というより、この二つにはないという結果が引き出された。
「(まぁ、無難に考えるなら以前に使われていたアジト、なんて使わないよな……この二つを除外できただけマシか?)」
過去から場所を当たる、という手を取ろうとした善大王は出鼻をくじかれ、虚空を眺めた。
「にしても、ベイジュを倒した奴はどんな奴なんだろうな」
「さぁ、知らないよ」
「教えてくれたら、仇討ちでもしてやるぞ?」
「どこの誰かも知らない奴に頼んで、どうなるもんでもないでしょ」
「俺が善大王、下の連れが天の巫女だとしたら?」
あまりに現実離れした話だったが、ここまで手の込んだ真似をされたばかりということもあり、女性は目を丸くした。
「本当?」
「もちろん。そうじゃなかったら、ここまで大胆なことなんてしない……というより、あの子供がその証明といってもいいんじゃないか?」
証拠は少なかったが、あっさりと信じ込んだらしく、女は急ぐように彼の手を掴んだ。
「ストラウブ派の男……ストラウブの腹心よッ!!」
「……知っているんだな」
「ええ、もちろん。あの男は約束を破って私を捨てたのよ! 挙句、金さえも寄こさないのよ! あなたが善大王っていうなら、あの悪人を始末してちょうだい!」
善大王はこの時点でおおよその状況を把握した。
「(なるほどな。この女を餌にし、ベイジュへ不意打ちを仕掛けたわけか。その上……ずいぶんドライな奴らしいな)」
「盗賊ギルドの実権も、金も、何もかもをあの男は独り占めしたのよ!」
「分かった分かった。とりあえず名前だとか容姿だとか、そういう情報はないか? 具体的な部分がわかれば始末しておく」
「本当ねっ!? 嘘はない!?」
「ああ、もちろんだ。善大王の名にかけて」
適当気味な対応だが、女はそれどころではないのか、焦るように言葉を紡ぎ始めた。
「金髪……藍色の髪の混じった斑な髪よ。目は青い……フレイア人らしくもない外見なのよ。名前は……スタンレー」
その名前が出た瞬間、彼は顔を顰めた。
「その名前は間違いはないな」
「えっ? ええ、当たり前よ。間違えるわけないわ」
「……なるほど。なら、予想より早く決着は付けられそうだ」
「なら、今すぐにでも殺してちょうだい! あの憎い男を!」
「もう時間だな。俺は出て行くとする」
お香が燃え尽きたのを確認すると、彼は案内を待たず、一人で店先に降りていった。
「楽しい時間を過ごせた。そいつの預かりも、助かった」
「はいよ、またどうぞ」
完全に固まっていたフィアを起こすと、彼は未だ冷めやらぬ人だかりをかき分け、通りに出た。
「フィア、なにかあったのか?」
歩き出してしばらくし、ようやく善大王は声をかけ――問いを投げかけた。
「なんか、すごいたくさんの人に見られた」
「へぇ」
「ライトぉぉぉ……すごい怖かったよぉぉぉお」
「客の連れを勝手に売ったりするわけないだろ」
「でも、いろんな人が聞いてたよ?」
「……ふむ、物好きは俺以外の他にもいるらしいな。いや、フィアが明るい子になったから、余計に可愛く見えたのかもしれない」
冷静な分析を行う善大王に幾度も拳を立て、フィアは目を潤ませた。
「(まぁ、フィアは少女売春でなくとも目を引く風貌だしな……というより、あふれんばかりの殺気や拒絶感はだいぶ薄れているみたいだな)」
彼と出会った頃のフィアは、そうした破滅的な雰囲気を纏っていた。
その点で言うと、確かに最近のフィアは明るさを取り戻し、普通の子供並とは言わないまでも柔らかくなった。
「そ、そんなことより! 収穫はあったの?」
「どうにも、あいつとは縁があるらしい」
首を傾げるフィアの手を引きながら、善大王は歩みを早めた。




