20f
二人は裸体のまま、ベッドに上にいた。
しかし、そうしたいつもの情景には明確な違いがあった。それまでは余裕が多く、不完全燃焼気味だった二人だが、今は多量の汗を流していた。
終わった後だというのに、スケープの息は荒く、対してガムラオルスは充足しきりながらも意識をはっきりさせていた。
「お前の躰、よかったぞ」
「……こんな時に、言わないでくださいよ」
単純に疲れ切っていることもそうだが、ああまでいいようにされた彼女は、彼の言葉にまで意識を回す余裕がなかった。
「少しだけ、話がしたい」
「ワタシは眠りたいですよ」
寝具で頭を覆うようにしたスケープを見て、彼は彼女を抱きしめた。優しく、乱暴さのない抱擁で。
あまりに異様な対応だったからか、驚いたように顔を出すと、「なんですか?」と問いを投げかけた。
「こういうことをしたい気分になっただけだ」
「そうですか」
刹那的な快楽によってか、ガムラオルスは目の前の女性を愛おしく思っていた。
そんな彼に抱きしめられ、スケープもまた悪い気分ではなく、こわばっていた体は次第に弛緩していった。
「なあ、明日にでも盗賊のアジトに案内してくれないか?」
囁くような声を聞いて、彼女は疑問を抱いた。
「盗賊ギルドを壊滅させる気ですか?」
「……いや、お前の言っていたことを信じてみたいと思った」
「……?」
「盗賊ギルドなら、受け入れられるんだろ?」
それはかつて、スケープが熱弁し、彼がなんのこともなく撥ね除けた話だった。
「俺は里を……故郷を捨てた。師匠やミネアのいる火の国さえも裏切った――俺にはなにもない」
「……」
「気付いたんだ。俺はきっと、誰かに従うことはできない……だから、火の国に戻ったところで、やっていけない」
「それで、盗賊ギルドですか」
「ああ、もう何もかも壊したくなった。しがらみも、自分さえも……だから、俺は――」
僅かな迷いを見せた彼が愛おしく見えたのか、彼女もまたガムラオルスを抱きしめた。
「はい。わかりましたよ」
暗闇の中、二人は口づけを交わし、そして――。
気付いた瞬間、ガムラオルスは目に突き刺さる光に気付いた。
彼もそうであったように、隣の女性も眠りに落ちていた。しかし、未だに目覚める気配はなかった。
「(眠っていたのか)」
彼はスケープを見た後、ベッドから起き上がり、カーテンを閉めた。
彼女が如何に頑張り、如何に疲れているかを知っていたからであろう。そんな風に他人を思いやるなど、少し前の彼であればあり得ないことだった。
「(……盗賊ギルドに俺の居場所があるか、それは分からない。だが――存外、悪くないかもしれない)」
一晩の伴侶が見せる寝顔を見て、彼はそう思うようになっていた。




