4
「ライト、あれでよかったの?」
「シアンは覚悟している。姫として、傀儡どころかスケープゴートとなることさえよしとしているんだ……強い子だよ、フィアと違って」
「えっ、なんでそこで私が出てくるの?」
「ただ、幼女らしくない。幼女がバカ親の責任を負う必要なんかない。シアンは、もっと気楽に生きていていいんだ」
真面目に語る善大王を見ながらも、フィアは「なんで、私のことが出たの?」と小さな声で言った。
ベッドから立ち上がり、善大王は窓際に立つ。
「ただ、シアンは絶対に譲らないだろうな。あの子は子供としてではなく、姫として生きることを決めている。俺じゃ、どうしようもできない」
「……シアンは決して間違っていないわ」
「ああ、分かっている」
苛立つように、善大王は椅子に座り、備え付けられたポットからお茶を注ぐ。
「飲むか?」
「うん」
冷えたお茶を啜りながらも、善大王は今後の方針を考えた。
文化維持に対する補助がおろそかになっている以上、水の国で見られるものは思っていた以上に残念になっているだろう。
それでもフィアに見せるべきか、世界が悪くなっていると教育すべきか、それともさっさと帰ってしまうべきか。
シアンの意志を尊重し、解決するという手を敢えて除外して善大王は考えをまとめていた。
「ねぇ、ライト……」
「なんだ?」
「シアンはこのままなのかな」
他人に興味を持たない、社交性ゼロのフィアからは想像もできない言葉が出てきた。
「あの子が考えを改めない限りは」
「……少し、嫌かも」
「いい傾向だ」小さな声で呟く。
善大王はお茶を飲み終えると、フィアの手を引いた。
「お姫様、観光スケジュールが二つあります。ひとつはしょっぼい文化観覧ツアー、もうひとつは……陰湿でつまらない調査ツアー。さぁ、どちらにしますか?」
「どっちも最悪じゃない」
フィアは笑い、小さな声で「もう決まっているんでしょ? ついて行くわ」とだけ告げた。
「俺好みの答えだ」
二人は部屋の中で出発の準備を済ませ、宿屋を後にしようとした。
扉を開ける寸前、フィアは善大王の袖を掴む。
「ねぇライト」
「どうした? 怖じ気付いたか?」
「……なんで私が引き合いに出されたの?」
どうやら、フィアは執念深く問い質すつもりらしい。
善大王はなにも答えず、ただの笑みだけで返した。宿屋に橙色の閃光が煌めく。