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「ライト、あれでよかったの?」
「ん? なにがだ?」
「あのスケープって人のこと! ミネアとか王様に言わなくていいの?」
「……うーん、俺は言わなくていいと思うな。少なくとも、奴らの動向次第だ」
「どうこうしだい?」
首を傾げて足を止める彼女を尻目に、彼は歩みを進める。
「あいつらが盗賊退治の方向に進むなら、見逃してもいいと思っている。だが――」
「えっ? なに?」
追いついてきたフィアが聞き直してきたが、彼は気にもせず続けた。
「あいつらが国を裏切るようであれば、その時はフレイア王に情報を売る。ついでに、あの女の首を取るってのもいい」
「なんか物騒だね」
「身内の毒を抜いてやったってことで、恩が売れるだろ? 盗賊の一件と合わせて、同盟復旧が狙えるレベルだ――少なくとも、ライカ救出に関しては協力を強制できる」
彼は相変わらず計算尽くだった。
「もしそうなったら、ライカはすぐに助けにいけるね! ……でも、だったらすぐに言ったらいいんじゃない?」
「ばーか、それだとあいつらが頑張る機会がなくなるだろ? 人間、頑張れば大抵のことはどうにかなる。だが、努力するには理由が必要なんだよ。ああやって脅してやれば、十分理由になり得る」
依然として理解できないのか、フィアは「あの人は裁かれていい人だし、いいんじゃない?」と身も蓋もないことを言った。
「俺はフィアが、友達想いの良い子になったと思ったんだがな……忘れたか? ミネアはガムラオルスを心配していた。きっと、帰ってきて欲しいと思っていたからだ」
「……じゃあ、まさか!」
「ああ、ミネアの為だ。大人の事情より、幼女の涙を拭う方が優先だ」
理詰めの人間ながらも、ここだけがシナヴァリアなどととは大きく違っている。
論理の外、不合理の行動原理。少女に対する強い愛こそが、彼の強い原動力となっていた。
「ライトって優しいよね」
「はは、そうだろう」
「でも、それだとライカは危なくない?」
割と図星だったのか、善大王はしばらく黙り、そして――。
「ライカはライカだ。水と光の国で協力して助ける。元々の計画からは変更もない!」
「なんかライトって抜けてるよね」
「みんなを片っ端に救おうとすると、こんな風に無理が出るんだよ。そんなことは分かりきってるんだが、どうにも幼女に犠牲を強いるようなやり方は好かないんだよな」
「ライトらしいけどね」
半笑い気味なフィアを直視した後、善大王は彼女の両頬を掴み、引っ張った。
「いたたたたっ! なにするのー!」
「フィアのこういう顔も、可愛いぞ」
「えっ、そうかな?」
誤魔化してはいるが、完全な八つ当たりだった。ただ、誤魔化されてしまうフィア側にも問題はある。
「っても、俺達が盗賊ギルドを潰す方針で動くぞ」
「えっ? いいの?」
「あいつらが動くまで数日はかかるだろうしな。なるべく早くこの件のカタをつけなきゃ、それこそライカが間に合わなくなるかもしれない」
冷静さは相変わらずか、彼は順々に自分のやるべきことを決め、優先度を確定させていった。
「でもライト、私達の情報じゃアジトなんて見つけられないと思うけど」
「フィア、お前がいるだろ」
「……やっぱりそうなるよね」
守るべき相手である少女にもこうして頼み込む辺り、彼はフィアの実力を信頼しているのだろう。
というよりも、少女の笑顔を守る為であれば、手段を選ばないといったところだろうか。




