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「……決着、だと? なんのことだ」
「お前みたいな奴は、上から頭を押さえつけてくるような命令は嫌いだろ? 俺の読みでは、盗賊ギルドの件からは手を引くとみた。だからこそ、フレイア王にはガムラオルスの代行をすると宣言してある」
これもまた本当であり、彼は謝罪の意と港の利用を条件に、盗賊ギルドの壊滅を無償で引き受けた。
この一件を解決したところで火の国が同盟に戻るとは限らない為、彼としては本国への帰還に主眼を置いてのものだろう。
「……王は俺をアテにしていないということか」
「そうなるな。というよりも、そう感じられるように言いくるめたんだがな、この俺が!」
この一言を聞いて、ガムラオルスは内心で驚いていた。
少し前であれば、憤りや反抗心を覚えていたことだろう。しかし、今の彼は異様に静かで、何かを感じることはなかった。
「(くだらない挑発だな……これで俺のやる気を出させようとしているなら、ご苦労なことだ)」
堕落しつつあった彼は、もはやかつてのように情熱を滾らせるような性質ではなくなっていた。
「関係ないな」
「……」
善大王はフィアと目を合わせた後、がっくりと肩を落とした。
「ミネアには悪いが、俺も王様だ。呑気に成長を見守ってやる暇はない」
「フン」
「えっとだな、そこのスケープとやら。こいつは稼ぐ気がないみたいだし、お前が代わりに稼ぐことをおすすめするぞ」
急に話を振られ、彼女は驚き、焦り、混乱した。
「えっ、何でですか?」
「そりゃ、お前くらいしか払えないし、稼げないだろ?」
「……は、はい」
「払う必要なんてない」ガムラオルスは言う。
「まぁ、お前はな。ただ、スケープさん? の方はそういう風にいかないんだよ。言っちゃ悪いが、この男についていったら火の国には戻れないぞ?」
正論だったが、スケープは未だに混乱している為、わけの分からないままに頷くだけだった。
「それだと不都合じゃないのか? 国を監視できなくなるぞ」
さりげない一言だったが、明らかに奇妙な単語だった為、鈍い彼女でもすぐに気付いた。
「えっ」
「まぁお前さん……というか、手を引いている奴が何を考えているかは分からないが、今のところは支障がなさそうだしな」
この手を引いている、という発言でガムラオルスも気付いた。
「まさかお前、奴を知っているのか?」
「そっちのお嬢さんは忘れているみたいだけど、昔に会ったことがあるんだよ。ま、気のせいかもしれないし、あとで国に売れると思って放置していたが」
善大王とフィアは、ガムラオルスと同じくらいに彼女の正体を知っていた。
かつて、婚礼の試練として行われた窃盗犯との戦い。その際、彼女が貴族と融合していたことも、彼女がスタンレーに変わったことも彼は見ていた。
とはいえ、国に売れるかもしれない、というのはこの場で考えた理由でしかない。少女にしか興味のない彼は、間の抜けた話だがすっかり忘れていたのだ。
思い出したのはフィアの能力によって。彼女は夜の世界を見て、そのあまりのエグさによって中断させたが、何も見えなかったわけではなかった。
遡った光景の中に、彼女が大好きな善大王が写っていた時点で、彼女の記憶には強く残った。
それを見通したことで、彼は全ての記憶を取り戻したのだ。
「まぁ、軍資金を返さないようなら、俺がお前を売ることになるが――その時は自業自得ということで納得してくれ」
それだけ言うと、彼はフィアの手を引き、店の外に出て行った。
その場に残された二人の男女は、沈黙したまま机を見つめ、この後にどうするべきかを考え始めた。




