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「(フィア、力は使えるか?)」
「(使えるけど……なんで?)」
「(ミネアとヴェルギンから頼まれたろ。ガムラオルスの調査ついでに、スケープとかいう女の情報を調べてくれって)」
この瞬間、ダストラム――火の国には四人の優秀な使い手が訪れていた。
とはいえ、善大王一行は掃除烏の存在を認知してはおらず、別々の理由でガムラオルスの問題に当たっていたのだが。
ウルスは彼の述べた通り、雷親父ことヴェルギンから直接頼まれている。もちろん、《選ばれし三柱》としての頼みであり、個人的依頼の性質が強い。
対して、善大王はフレイア王との接触により、本件の対処に向かうこととなった。その過程でミネア、及びヴェルギンから注意事項を聞いていたのだ。
これほどの者達が偶然に一カ所に集まるなど、普通ではあり得ないことだった。運命の糸は異様なほどに捻れ、絡まり始めていた。
「うん、じゃあやってみるね」
「えっ、何をですか?」スケープは問う。
「……なんでもないの」
明らかに怪しいフィアの反応に、スケープは超偶然的な直感を感じ取った。
何かが行われようとしている、そしてその対象が自分であると。
咄嗟に心を閉ざしたのだが、その程度で彼女の能力には抵抗できるはずもなかった。心を読む力であれば防ぎ切れたかもしれないが、フィアの力はそうした次元で行われていない。
虹色の光が宿った空色の瞳はほどなくして――閉じられた。
「(どうした、結果は出たのか?)」
「(……なんか、見たくなくなったの)」
「(は? ちょっ、それはどういうことだよ!)」
フィアは何も言わず、黙り込んでしまった。
彼女は調べる対象を明確にしていなかった為、高速でスケープの人生を逆再生していった。
その過程で、莫大な量のエグい場面が映り込んだ。それが殺戮などであればともかく、男女の交わりだったというのだから拒絶反応を示すのも仕方がない。
年相応に性知識も乏しく、頭がメルヘンな彼女からすれば、愛のない立ち食いのような行為は受け入れがたいものだったのだ。
無論、善大王も彼女がそうした性質を持っていることを理解しており、こうした反応からおおよその当たりをつけていた。
「スケープとやら、お前……体を売ってるのか?」
「あれ? ちょっと、ライトなんってことを――」
「はい、相当売ってます」
「ふむ……ならば仕方ないな」
聞く方もそうだが、答える方も答える方である。
少女に関しては気の利く彼であっても、全く興味も感心もない相手ともなると、その本質が露出する。
そして、その無関心さが生み出す率直な質問は、スケープからすればとても分かりやすく答えやすいものだった。普通であればマイナスな情報だが、彼女は自分が汚れきっていると達観――というよりも諦観している為、隠す意味はなかった。
この問いを行った時点で、善大王とフィアは盗賊壊滅部隊である二人の席に移り、なるべく騒ぎを広げないようにした。
「よく分かりましたね」
「みりゃ分かる。それに、お前からは娼婦の臭いがする」
「くさいですか?」
「一挙手一投足に至るまで、その痕跡が見えるんだよ」
「なんかライト詳しくない? もしかして、そういうお店に――」
「馬鹿言え、俺がそんな店に行くもんか。ただ、そういう店で働く幼女と一戦交えたことはある」
地味にとんでもないことを言った善大王に対し、フィアは当然のこととして、同席者の二人さえも驚愕を抑えきれなかった。
「ら、ライト! サイテー! フケツ!」
「本物の少女愛好家ってことですねー。何人くらい抱いたんですか?」
「……だからこそ、俺は娼婦は好かない。幼女は自然で、ありのままが最も素晴らしい。あのような場は存在する意味がない」
真っ当なことを言っているようだが、ただ持論を語っているだけである。その上、彼がそういった店を利用したという事実も変わっていない。否定さえしていない。
「それは暴論じゃないですか?」
「お前だろ、そこの若造をたぶらかしたのは」




