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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
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12f

 二人は沈黙のまま、一触即発の雰囲気を(かも)し出した。

 これはよくないと、クオークが割り込んだ。彼としても、脇道に逸れて本題が語られないというのは望ましくなかった。


「そ、そんなことよりも! 盗……フレイ――」


 話を切りだそうにも、この場で口にできる単語は限られていた。


「あの雷親父、相当にキレて――いや、というより呆れていたぞ」

「同類としての(よしみ)で頼まれた、といったところか」

「知ってたか」

「あの小娘を統御(とうぎょ)できていたほどだ、そのくらいは予想できる」


 ウルスは鼻で笑った後「ならお前も同類の(よしみ)で聞いちゃくれないか? ……仕事を忘れるな、いいな」と念押しをした。


「事情が変わった。どうでもよくなったんだよ、この国のゴタゴタも、戦争も、何もかもどうでもよくなった」

「はぁーっ、本当にあの親父の言ったとおりだな。お前みたいな世間も快楽も知らないようなガキが、こーんな分かりやすい歓楽街に入り浸ったらどうなるか、んなもんやってみなくても分かるもんだがな」

「ガキだと?」

「違うか? 酒も飲まねぇで、女も抱かなかった時の自分を見て、お前は何って評価する?」


 自分が変わったことは彼自身がよく理解していた為、これには黙り込むしかなく――いや、むしろ正論と受け取りたくなっていた。


「ああ、俺はただのガキだった。何も知らないで、馬鹿みたいに躍起(やっき)になっていたクソガキだ」

「ハッ、自己分析くらいはしっかりできるもんだな」


 好意的な反応ではなく、明らかに皮肉を込めた口調だった。


「俺のことは俺が一番分かっている」

「……ま、それについてどーこー口出しはしねぇよ。だがな、俺達も仕事だ、お前にゃ盗賊退治をしっかりやってもらう」


 クオークは顔を青ざめさせたが、ウルスは真顔だった。


「ウ、ウルスさん……酔ってもそんなことを言っちゃ」

「馬鹿言え、こんな量で酔うアホがいるか。俺は素面(シラフ)だ」


 ジョッキ一杯のエールを空にしてはいるが、彼の言うとおりにこの量で酔うのはそう簡単ではない。

 そもそも、そこまで酔いやすい男はここまで豪快には飲まない。


「……手がかりもない状態で、何をしろという」

「なら探りゃいい。頑張って探せば見つかるかもしんねぇだろ」

「努力が意味を持つなど、そんなのは理想や絵空事だ」

「なっ、そんなことないですよ! 頑張れば結果は出ますよ!」

「……お前に何が分かる? お前はいくら努力しても無意味な状況を知っているのか?」


 冷ややかな口調で告げたガムラオルスは、ただ世間に反抗する子供の顔ではなかった。

 事実、彼はティアという天衣無縫の無謀娘に付き合わされ、必至に頭を悩ませたが実を結ぶことはなかった。

 彼が如何に努力し、如何に一族の未来の為に努力したかは、彼の残した機構や人材達が物語っている。


「ハハ、努力は無駄ってか」

「違うか?」

「いんや、おおよそ間違っちゃいねぇ。だがな、男はやらなきゃならねぇ時は何が何でもやらなきゃなんねぇんだよ。それがいくら無理や無駄だとしてもな」

「時代錯誤(さくご)な根性論だ」

「そりゃ否定しないけどな。だが、人の歩む道ってのに無駄はねぇよ。どんな失敗も成功も、徒労だって積み重なって過去になる。望みの未来なんてのはその積み重ねの経過にあるだけ、ポンっと手に入るもんじゃねぇ」

「説教はごめんだ。俺はもう成人して久しい」

「形式上の成人になんの意味があるのやら。先輩からの助言だが、歩まないことにはどこにもいけないぞ。どんなことも等しく一歩だ、魔物を倒そうが酒を飲もうが、女を抱こうが」

「……失礼する」

「そうかい」


 立ち去るガムラオルスを見送り、ウルスは呑気に再度酒の注文を行った。

 そんなマイペースな彼と大人となった青年の姿を交互に見やり、クオークは頭を抱えた。


「もー! なんであそこで止めないんですか!」

「なんならお前が止めりゃよかった。というより、追いかけりゃよかったろ」

「そ、それはそうですけど……でも、ぼくだけじゃちょっと」

「ま、無駄だろうな」


 速やかに用意された酒をグビグビと飲み、ウルスは天井を見つめた。


「あいつにゃなにを言っても無駄だ。とりあえず雷親父からの注意は伝えたわけだし、あれで十分だろ」

「十分って……結局説得できてないですよね」

「無給の仕事なんてあんなもんで十分だ。むしろ、こうやって一応でも伝えてやるだけ義理堅いもんだぜ?」


 説教をした彼本人も、ある意味でいえば大人だった。

 ただの口約束でしかない上、果たせなかった際の損害もないという状況で本気になるのは無駄な労力でしかない。

 その状況でさえ本気になる人種は、ティアやクオークのような理想を本気で実現可能と信じるような異常者くらいのものである。


「(言って分かるような奴は天才(バケモノ)くらいだ。後で振り返って気付くのが凡人(にんげん)ってもんだ、だから今はこれができる限りの最善だ)」


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