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大空のフィア  作者: マッチポンプ
後編 ダークメア戦争
941/1603

10f

 真昼の娼館街を歩き、彼は見定めを行っていた。

 好みが如何に無意味なものかを理解しながらも、ガムラオルスは人を選ぶ指標を特定の感覚にしか頼れない。


「おっ、あの姉ちゃんなんかいいんじゃないか? 緊張しないで良さそうだぞ」

「き、緊張しないなんて失礼な――というか、ぼくは行きませんよ!」

「ケッ、つまんねぇな。女も知らないようじゃ男としちゃ小さいまんまだぞ」


 赤髪の中年と金髪の若者は何かを言い合っていた。


「(こんな時期にノンキな観光組か)」


 よく居る種類の組み合わせと判断し、ガムラオルスはさっさと歩みを進めようとした。

 しかし、あちらはよくあると断じることもなく、ただ一人で突っ立っていた彼を注視した。


「お前、あんときの」

「……知らんな」


 全く記憶がない彼に対し、金髪の若者はすぐに気付き、指を指した。


「あっ、《翔魂翼》の!」


 すっかり忘れていたガムラオルスと違い、掃除烏(・・・)の面々は《翔魂翼》のホルダーということもあり、彼のことを綺麗に記憶していた。


「こんなところで会えるなんて奇遇だな。いや、こりゃ運命か? せっかくだ、神様への感謝ついでに一杯やらねぇか? カシもあるし、(おご)ってやるよ」


 自然で円滑な語りを伴いながら近づいていき、ウルスは彼の肩を叩いた。


「馴れ馴れしくするな」

「冷たい態度を取るなよ。それともあれか、お前さんはこっちのヘタレと違って、結構いけるクチか?」


 娼館を顎で差し、下卑た笑いを浮かべた。

 面識があるわけでもない相手の言葉ともあり、彼は気にするまでもなく、面道事を他人事として横を通り過ぎようとした。


「ご苦労なことだな。国家の金で女漁りをするなんて、俺でもできねぇぞ」

「……」


 この時点で、両者は一つの共通点によって繋がった。


「ヴェルギンか?」

「とりあえず呑みにいこうぜ。店はお前さんに任せるとするからよ」


 意図を探り兼ねたガムラオルスは、とりあえず知っている酒場ということで、贔屓(ひいき)にしている(くだん)の酒場に目を付けた。

 金の出自(しゅつじ)を知っている相手を前にして、鈍りきっていた頭を無理矢理に働かせ、それでようやく引き出した答えがこれだった。

 焦りと鈍い頭、これが寄り集まった際の判断が如何に失策であるか、これは例を挙げるまでもないことであろう。


 幾度も通うようになったからか、ガムラオルスの入店に際して何かしらの反応が見られる、ということはなくなっていた。

 しかし、そんな彼に続くようにして現れた二人は例外であり、盗賊達は一斉に臨戦態勢に移った。

 それもそのはずだ。身分不明の彼と違い、二人は手の甲に身分を貼り付け、挙句それが敵対者の証であるのだから猶予を与える意味がない。


「物騒な店に連れてきやがって、話を通せよ」

「……チッ」


 従うことを是としたわけではないにしろ、彼は酒を求めていた。スケープは確かに要求分を都合してくるのだが、それらは彼の好みに適していないものばかりだった。

 そしてなにより、ウルス達がヴェルギンと通じていると分かった以上、その話を聞かないで放置するというわけにもいかない。


「俺の連れだ」

「坊や、あんたが無害だってのは認めよう。だがな、そいつらは冒険者だ、この店に入っていい客じゃねえ」


 事態が事態だからと、マスターは真剣な表情で――というよりも、憎しみを浮かべながら言った。


「何かするようであれば、俺が潰す」

「……いや、やっぱりダメだ。冒険者連中がいるんじゃ客が落ち着いて呑めねぇ」

「そういう頑固なことは言うなよ。次からはこねぇからよ、今日は見逃してくれねぇか?」ウルスは言う。

「次なんて言わないで、さっさと出て行ってくれ」


 この頑固さにはさすがに腹が立ったらしく、ウルスは前に出た。盗賊の一人が本当に攻撃を仕掛けてきたが、睨みによる威圧感だけで男は怯んんだ。

 動きが止まった瞬間、強く踏み込むことで音を鳴らし、盗賊に尻餅をつかせる。ナイフは地面に転がるが、それを一瞥するだけに留め、マスターに向き直った。


「偉くなったもんじゃねえか。ボスがぶっ殺された後に、さっさと鞍替えしたからか? 年取って利口になったんじゃねえか?」


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