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「……はい」シアンは言う。
善大王が総合した答えはこうだ。
フォルティス王が水の国を圧迫していた文化保全金の大半、さらに増税によって得た金を軍備増強に回した。
結果、図書館や歴史的食事処の状況は悪化し、民の不満が蓄積されたということ。
水の国の歴史は長い。公式に確認されている限り四番目に建国された国とされている程だ。
単純な歴史的価値で言えば天の国の圧勝ではあるのだが、現状も栄え続けているという意味ではこちらの方が強い。
世界で最も大きな規模の国でありながらも、温故知新の精神を持っているのは特殊だった。
善大王自身はそうした水の国の文化に触れる機会は少なかったが、それでもこのミスティルフォードの常識を持っている人間として、この事態をよしとはできなかった。
「フィア、こういう文明破壊はどういう扱いになっているんだ?」
「神からすれば管轄外ね。文化は人が勝手に創って勝手に滅ぼすもの。こうなるのも運命よ」
「なるほど、じゃあ天誅にはなり得ないわけか」
完全にフォルティス王を黙らせる気になっていた善大王を見て、シアンは急いで注釈を入れる。
「善大王さん、これは水の国の問題で……」
「この世界に生きる者全ての幸せを願う、それが善大王だ。ま、俺はそこまで崇高な意志をもっているわけじゃないけどな」
「ですが……」
「俺としては、文明破壊やらはおまけた。実際は、シアンの為と言ってもいい」
彼は常識を持っている。長い歴史が守り抜いてきた文化が一世で滅ぼされる様を平気で見ていられる人間ではない。
ただ、それは彼の言った通りおまけだ。
善大王がなによりも遵守するのは、少女のこと。理解の及ばない軍備増強による危機感すら、それより優先度は劣ってくる。
少女が健全に育つ為の土壌を犯される様を、彼は決して黙ってみたりはしない。むしろ、表だって動くほどだ。
「……なら、水の国の姫として言わせていただきます。王に何かを言わないでください」
「だが、このままだとシアンはあいつの尻拭いで謝罪し続けることになるんだぞ。それでも、今のままならいい。しかしこのまま続けば、憎しみは矢面に立つシアンに向けられることになるぞ」
シアンは飽くまでも謝罪をするだけ。具体的な解決策を打てる立場ではないことを善大王は知っている。
だからこそ、この謝罪行為が効力を持つのはせいぜい一年程度だと見ていた。
その後はどうなるか、それは簡単だ。事態を一切解決できないシアンに文句がいく、自分達を苦しめる王族の代表とし、誹りを受ける。
ひどければ、襲われることもあるだろう。善大王はそれが耐えられないのだ。
しかし、シアンは真剣な表情で答える。
「わたしは、それで構いません」
善大王は少女の気持ちが分かる。
だからこそ、気づいてしまう。シアンはなにを言ってもこの意見を変える気がなく、どんな目に遭おうとも姫であり続けると。