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姫が理解できずに固まっている最中、親衛隊の男は網を投げ、魔物を捕獲した。
あまりに単調で、幼稚な策だったからか、魔物はあっさり網に引っかかった。
「確保」
「その……その魔物は噛む力がすごいんだよ。それじゃあ……」
「大丈夫……ですよ、姫様」
魔物は余裕を持って網を噛み千切ろうとしたが、牙を立てた瞬間に反発するような力が生じ、火花を散らす縄への攻撃を中断した。
「えっ、どういうことなの?」
「強力な光属性の導力を流し込んだ網ですよ。魔物である限り、噛み千切ることは不可能です……が、やはり報告通りですね」
「報告……?」
捕獲した魔物を一瞥し、親衛隊の男は哀れなものをみるような表情を浮かべ、アルマに向き直った。
「かつて発生した寄生型、あれもまた光属性に耐性を持った種類でした。その為、通常の導力では対策としては不足……と」
その調べについてはアルマも関わっており、魔物という負の存在が正の中心地とも言える光の国に侵入できたことも、耐性が原因だと同定していた。
ただ、この状況下でそんなことを思い出せるはずもなく、彼女は未だに自分が発信したものということを忘れていた。
「耐性は未だに完全ではないと見えますね。ですが……これだけの量を浴びせられ、命が続いているという時点で――」
それ以上は姫を怖がらせると判断したのか、喉奥で留められた。
「……ですが、安心してください。分娩室の個体も同様の方法で対処しました」
「みんなは、無事だったの?」
「……はい」
明らかな嘘だった。そもそも、看護婦の一人が殺されたという事実を知らされている以上、みんなが無事だったというのはあり得ない。
「我々が到着した時には、既に魔物も深手を負っていた為、被害が抑えられたのかと」
これは真実だった。
看護婦が殺されたのを確認した瞬間、これまでやむない処置として行ったことと同じように、赤子の命を終わらせようとした。
無論、人の形をしたそれを殺した経験はないらしく、あっさりとは行かなかった。その上、魔物は赤子の能力に魔物の戦闘力が上乗せされた強力なもの。
彼自身も大怪我を負い、痛み分けのような形で動きを止めるのがやっとだった。これが国防部隊が登場するまでの出来事だった。
「捕まえた赤ちゃんは……どうするの?」
「医療部門に送ります。彼らの回復は、望めないでしょう」
「そんな……」
アルマは深い絶望を覚えながらも、次第に冷静さを取り戻し始めた。
「生まれていない子なら、まだ助けられるよね」
「えっ」
「もう、一人だって悲しい思いはさせたくないの! だから、あたしは進むよ!」




