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――光の国、ライトロード城医療部にて……。
「特に変わったことはありませんね」
「うん! よかったぁ」
霧は漂い続け、その規模を一定に留めたまま首都を――光の国全体を暗くしていた。
既に一週間以上は続こうかという異常気象に、医療部門の人間は警戒を示していた。
アルマがこの場に訪れていたのも、インティからの頼みというより、悪い予感を感じ取ってのものだった。
「むしろ、状況は好転というべきですかね。負傷者の傷が予定以上に早く回復する例や、妊婦の出産予定日が大幅に早まるなど――」
「……誰かが術を使っているの?」
「いえ? 自然的な現象ですね。こう霧が立ちこめていると気は滅入りますが、光属性の土地だけあって肉体の活性化が行われているんですかね」
最悪な結果で、アルマの予想は的中してしまった。
確かに、光属性は肉体の自然回復スピードを加速させ、肉体の強化などを促す効力を持っている。これはマナにも含まれている効力であり、光の国では肉体が健全である者が多いのだ。
しかし、近日のマナは活性化どころか、むしろ不活化といっても良いほどに効力を減退させている。
こうなると、喜ばしい出来事は不可解さを増してくる。
「その人達、ちょっと見せてもらっても大丈夫ぅ?」
「はい、大丈夫ですよ」
能天気な医者に案内され、先に傷の治りが早い患者達を見ることとなった。
「おお、巫女様!」
「こんにちはぁ!」
患者達は巫女であるアルマが直々に来たことで、顔を綻ばせた。
彼女はそんな歓迎をほどほどに受けながら、問題の傷口を確認して回った。
医療的な知識を有している彼女が見たところ、その傷口は光属性による治療が行われたものと近く、治癒は順調に進んでいるという診断結果が出た。
だが、巫女としての直感はそれ以外のものを感じ取った――いや、直感だけではなく、明確な感触としてもそれを認知したのだ。
「(これ、魔物と似た感じがする……闇属性のようで、闇属性じゃない。まるで――)」
彼女の脳裏に存在していたのは、負の力だった。善大王の力や《光の門》とは正反対の力にして、魔物を構成する力。
ただ、これが霧による効果かどうかは断言できない上、寄生型の例と比べると浸食率があまりにも微弱だった。
これでは傷が完治したところで、魔物にとっては何の利益にもならない。全身に重傷を負った患者がいたとしても、件の寄生型ほどに浸食することはできないだろう。
「光属性の効果に似ている……ね」
「えっ? ええ、そうですね」
「闇属性にそんな効果はないはずだし……それに、闇属性の――ソウルのような感じはしなかったし」
「は、はぁ」
アルマの言っている意味がまったく分からなかったのか、適当な相槌が口をこぼれた。
「……! 妊婦さんの場所に案内して!」
「はっ、はい! ただいま――」
彼女が気付いた時には既に遅く、女性の叫び声が聞こえてきた。
その瞬間、アルマの片足は地を離れ、医者の制止さえ振り切って走り出した。
「(あの霧が魔物ならっ……魔物の一部分だったら! それで、もしそれが光属性みたいに、細胞を活性化してるとしたら!)」
走りながらも、彼女は自身の予想をまとめ上げた。
その答え合わせは、すぐに行われることになる。彼女が分娩室に辿りつき、蠢いていた赤ん坊を見ることによって。




