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――光の国、ライトロード城下町にて。
「これで、みんなは元気になるかな?」
「……どうでしょうか。変化を望むにはまだ早いかと」
タグラムはお触れを出し、税の軽減を民に知らせた。
まさに誤差という程度の影響しかなかったものの、これは決して悪い方向には進まなかった。
件の話し合いの後、この発表が行われるまでにはしばらくの遅れがあった。しかし、それは牛歩戦術などではなく、きちんと話し合われた後の結果だった。
アルマは教会など、首都の各地で人々の話しを聞き回り、その不満を受け止めていた。
その中で、最も多かった重税の苦しみを聞き、彼女はこれを改善できるように掛け合うと宣言したのだ。
そうして説得に成功した、という状況が成立した。これにより支配者と民の一方通行な関係が払拭され、話し合いの意義が生まれた。
こうした策略の部分については、タグラムにしてもアルマにしても不足が多かった。
故に、具体的な作戦考案を行ったのは前線で戦っているシナヴァリア、ダーインの両名となっている。この策をアルマが立案し、二人の影を臭わせないように事を進めたのだ。
その二人が糸を引いているだけはあり、この展開は想定通りだった。
民の不満など、十中八九が過剰な増税に向けられる。もちろん、何割かが別の問題を述べるかもしれないが、ここでは過半数以上を採用すれば十分に威光を示せるのだ。
そうして、既定路線だった減税を民が――アルマが――変えたという風に印象操作したのだ。同じ結果でも、これはなかなかに有効である。
このような策略により、僅かばかりの希望が首都ライトロードを仄かに照らし始めた頃、アルマは護衛を連れて歩いていたのだ。
付き添いは当然、親衛隊──と思いきや、インティだった。
実力は折り紙付きであり、かつ彼の顔はあまり割れていない。今回のように、町の中をパトロールするのであれば、姫が歩いているという感は出してはいけないのだ。
「でも、みんなの顔が少しだけど、明るくなった気がするよ」
「……巫女様がそうおっしゃられるならば、きっと効果があったんでしょうね」
巫女様、の部分は声がかなり小さくなっていた。
インティは軍から支給された軍服を身に纏っているが、アルマの方はこげ茶色のケープで顔を覆っている。
彼女は普段から耳を隠す為、かぶり物をしているのだが、その色は派手であり、布の質も良い。今被っているような――それこそ村人が用いるようなものでは、彼女を連想できないのだ。
「(あれ以降、魔物の出現は見られない。だが……)」
寄生型の発生以降、民の多くはその再出現を恐れ、家から出ることを避けていた。
しかし、あれ以降にまったく出ないということもあり、既に三割ほどが以前のように町中を歩くようになっていた。
あの一回が特別、そう考えるのが一番簡単で、一番楽観的だった。しかし、軍に属し、若くして死線を潜ってきたインティは油断しない。
「(確かに、魔物の出現は止まった。しかし、この霧はなんだ……? 魔物が空に撒いていたものと同質のものか?)」
開戦直後、魔物や闇の国が優勢だった頃は空が分厚い雲に覆われ、世界は闇に包まれていた。
それはカルテミナ大陸の一戦以降、改善傾向にあるのだが、このライトロードでは逆にその時期から地上に霧が立ちこめるようになった。
当時のシナヴァリアが分析したところでは、魔物は有利な環境を作る為、闇属性――魔物と同質の成分の霧、雲を放出していたという。
しかし、光属性の本拠地である首都ライトロードにおいては、無限の如く照明が存在する為に暗がりは作られない。
そもそも、魔物が吐き出していたそれと比べ、周囲を暗くする効果は明らかに軽微であった。
「巫女様、この霧については何か分かりましたか?」
「うーん、闇属性の感じもしないし……導力とかマナって感じでもないの」
「となると……ただの霧、ですか」
「だと思うけど、うーん」
「いえ、ありがたいご意見です」
ただの霧、という言い方だと分かりづらいかもしれないが、これは水などの自然的な成分によって発生した現象ということである。
闇属性や水属性は霧を生み出す術を有しているが、こうしたものの場合、導力が含まれている為に区別を付けることが可能である。




