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町を歩いていると、兵士の詰め所の前に押し寄せる大量の人々が目に入る。
「なんだろ」
「お前の能力なら探れるんじゃないか?」
フィアは納得し、適当に一人を選んで心を覗き込んだ。一切躊躇がない。
「……文句言ってるみたい」
善大王は野次馬根性とは違った方向で興味を持ち、集団に近づいた。怯えながらも、フィアも続く。
「税を下げろ!」
「そうだそうだ! これじゃやっていらない!」
「王には伝えておく。だから散れ」と兵士。
「その言葉は何度も聞いた、もう我慢の限界だ!」
今にも暴動が起きようとしているのを確認した時点で、善大王は第一優先目標としてフィアの手を握った。
「止めなくていいの?」
「流れ弾が飛んできたら厄介だ」
少し離れた場所にフィアを置き、善大王は一人で事態の解決に踏み切ろうとした。
「みなさん、申し訳ありません!」
その声を聞いた途端、善大王は足を止めた。
兵士と不満を持つ者達の間にはシアンが立っていた。彼女は王族でありながらも、民に頭を下げている。
「いや、姫様に不満があるわけでは……」
「う、うん、確かにな」
シアンの登場でその場に立ちこめていた一触即発な空気は薄れる。
「税の軽減をできるように、可能な限り王に意見をさせていただきます。ですので……」
「姫様がそういうなら……なぁ?」
「そ、うだな……よし、引き下がろう」
勢いを完全に削がれ、兵士の詰め所前に集まっていた者達はばらばらに解散していった。
そうして全員が去っていくまで、シアンは何度も頭を下げ、謝罪し続けた。
「姫様、申し訳ありませんでした」
「いえ、大丈夫です。わたしにできるのはこれくらいですから」
そうして兵士から目を逸らした途端、善大王と目が合う。
「よっ」
「あっ、善大王さん」
二人は再会すると、適当な喫茶店に入った。極自然な流れで。
フィアは既視感を覚えながらも、善大王の隣に座ってジュースに口をつけていた。
「今回はどのような用件で」
「なに、引きこもりのお姫様を社交的にしてやろうとな。さしあたっては実際の世界を見せてやりたいって思ったわけだ」
「なるほど、よかったですねフィアちゃん」
照れくさそうな顔をしながらも、フィアは頷く。
「それにしても、さっきのはなんなんだ?」
「近年、水の国は税を高めているのですよ。父が王になった範囲で言えば、最も安い時期の
四倍程度には」
あまりにおかしな数字を前に、善大王は冷静さを失い、純粋に驚いた。
「四倍って、すごいの?」
「はっきり言う、完全なまでの反理想郷だ」
水の国の税率は比較的高い部類である。文化の保全という目的があるからこそ納得する節も多くあったが、その状態から四倍となると正気ではなくなる。
軽く計算しても、光の国よりも六、七倍は高い税を支払っていることになる。それがどれだけ異常かは言うまでもない。
「それで、何をそんな使っているんだ? シアンなら知ってるだろ?」
「具体的にいえば、軍備増強ですかね」
仮にも国家情報というのに、シアンは一切隠してこなかった。
それに目がいきそうにもなるが、善大王は大事な点を見逃さない。
「軍備増強? 水の国が?」
再三言うことになるが、水の国は文化の国だ。芸術に傾倒しすぎ、衣食住を切って画材を買うような者がいたくらいだ。
そんな者達が戦う力を得ようとするなど、明らかに異常すぎる。
だが、それは意外ということでもなかった。善大王は点と点を繋ぐように、ひとつの真実に至る。
「文化までも捨てようとしているのか?」